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どうしよう、燐くん。
私、糸師くんを好きになっちゃったかもしれない。どうするのが正解なの?教えて燐くん…
家に帰って1人になると、悶々と考え込んでしまう。
最近、糸師くんに対する私の気持ちが少しおかしい。ちょっとした事でドキドキして、顔が熱くなって。
これの正体を、私は知っている。
「恋、だよね……?」
「ミャ〜」
どうしよう。仕事相手っていうだけなのに、こんなこと。
ーーだってあの人は、晴れを待つ私に傘をくれた。雨でびしょ濡れになった私にタオルを掛けてくれた。
ただそれだけで、好きになるには充分すぎた。
でも、
「燐くん…」
大切な指輪を取り出して、強く握り込む。
一度は結婚の約束までした大好きな人。大切な人。
「いいの…?」
その思い出を全部しまい込んで、次に進んでもいいのかな。
分からないまま、季節は夏へと傾いていった。
*
「わ…すごい熱気…!」
糸師くんからもらったチケットで見に来たら、明らかに私のようなにわかとは違う人達の集まりで本当に驚いた。
糸師くんの所属するチームのホームで行われるから、相手チームからすると完全アウェー空間。
両隣を屈強な男の人に挟まれて、縮こまって座っているしか出来ない。
『ヘイ!君もビール飲むだろ?』
『あ、いえ、私お酒はダメなので…』
『そんなこと言わずに!姉ちゃん、もう一杯この子にちょうだい!』
「え、あ……」
ダメだ。通じてない。
まあ悪酔いするタイプという訳でもないので別にいいけど…
今日ばかりは無礼講だと思い切ってビールをゴクゴク飲み込めば、その調子だと野次が飛ぶ。
「ぷはっ!あ、案外おいしい…」
『ん?なんだって?』
『ああ、いえ。お兄さんは今日はどちらから?』
『俺はすぐそこに住んでるんだよ。姉ちゃんは?』
『私も近くに住んでます。見に来るのは初めてなんですが』
『そうなのか!楽しんでいけよ!』
『はい、ありがとう』
そんな事を話している間に、ホイッスルの音によって試合が始まりを告げた。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時