21. ページ21
.
それから少しすると糸師くんは次のシーズンが近付いてきて、毎日が練習の日々に突入した。
私は管理栄養士さんの指示に従ったメニューを作ってそれを応援する。
「ただいま」
「おかえりなさい。お疲れ様、糸師くん。ご飯もう食べられるよ」
「手洗ってくる」
洗面所へ向かったのを見送って食器に丁寧に料理を盛り付ける。
味付けはあまり派手に出来ない分、盛り付けでいかに量が多く、美味しそうに見せられるかが鍵なので。
テーブルに料理を並べていると糸師くんが戻って来て椅子へ腰を下ろし、いただきますと手を合わせた。
料理に使ったフライパンなんかを洗いながら、そういえばと口を開く。
「糸師くんの試合、私も見に行ってもいい?」
「勝手にしろ。…席、取ってやる」
「ほんと?ありがとう。一度近くで見てみたいと思ってたの」
「いいけど…そんな大層なものじゃねえぞ」
「どうして?かっこいいじゃない」
そう返すと何やら妙な顔をするのが見えて苦笑する。変な事は言ってない筈なんだけど。
「んなっ、こら!何してんだニケ!」
「え、なに!?」
今度はうちの子が何をやらかしたのかと思って慌ててそちらを見ると、なんとニケが糸師くんのお魚を強奪しようとしているらしかった。
「こらニケ!何してるのあなたは!」
「おい離せこのヤロウ!」
「ンミ〜!」
ひょいひょいと沈み込んでは出てくるすばしっこいニケを2人がかりで追い掛けて、もうこれはもぐら叩きだ。
「わっ!?」
「っ…!」
糸師くんの座る椅子の横から向こう側に手を伸ばしてつんのめったのを、力強い腕に抱き止められた。
瞬間、カアッと顔が熱くなる。
突然に早くなる鼓動がバレないように、慌ててその手から離れた。
「ご、ごめん!」
「別に」
「ほ、ほらニケ!こっち来なさい」
ニケを捕まえて慌ててその場から離れる。顔が赤くなってるの、バレたら嫌だから。
どうしよう。心臓、やばい。
ぐでんと私の腕に体を預けるニケのお腹に顔を埋めて、熱くなる顔を隠した。
.
43人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時