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「凛さん、家のことってどうしてます?」
「家の、こと」
「料理とか掃除とか、片付けとか。もし困ってるなら、ハウスキーパーとか雇ってみます?ツテがあるんで安く頼めますよ」
「ハウスキーパー」
マネージャーから出てきた言葉をオウム返しに口にして、その単語を咀嚼する。
ハウスキーパーってなんだっけ。家事代行サービス的なあれか。
頭の中で理解してからどうするべきかと考えてみるが、特に困っているという程でもない。強いて言えば料理をして貰えるなら助かるというだけで。
悩んでいる自分を見かねてか、マネージャーが微笑する。
「良いもんですよ。いつも家が綺麗に保たれますし、何もしなくても料理出てくるし」
「そうか…」
頼んでみても良いかもしれない。料理に関しては、栄養バランスについて気を付けて貰えるよう頼みさえすれば良い訳だし。
そう思って頼むことにした。
それがまさかかつての同級生だったなんて誰が思う?
「初めまして、糸師さん。家守Aです。これからお世話になります」
「………こちら、こそ」
「あ…もしかして、覚えてる?中学で同級生だったんだけど、」
「覚えてる。…久しぶり」
「ふふっ、嬉しい。また会えるなんて」
口元を隠して上品に笑う姿はかつてと変わらない。
でも見ている内に、どこか違和感を覚えるようになった。
何かが、違う気がする。
「えっと…掃除は大丈夫だと思うんだけど、料理の方って何か指示があったりする?栄養バランスとか」
「あ…ああ、ある。管理士からメニュー預かって来るから、その通りに作って貰えれば」
「了解しました。…うん、契約書の方はこれで大丈夫。他に何かありますか?」
「いや、特には」
「じゃあ、これで」
記入し終えた書類をファイルにまとめて家守が立ち上がるのに合わせ、自分も立ち上がって玄関まで見送る。
靴を履くと家守は結い上げていた長い髪を下ろし、軽く梳きながら姿勢を正した。
「それじゃあ、これからよろしくお願いします。糸師くん」
「……おう」
扉を開けて出て行く姿を眺めていたら、ふっと思い出した。
ああ、そうだ。
指輪が、なくなっている。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時