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語られたつらい過去。
結婚の約束をしていた恋人が突然に奪われて、ずっとそこで立ち止まったままでいたのだと家守は話した。
肩口に顔を埋めて泣き声を上げるその頭をゆっくりと撫でてみる。
「りんくんっ……りんくん…！」
自分と同じ音の名前を持つその男がどんな人間だったのか、聞いた話だけでは伺い知れない。
でも優しくて大人っぽかったというその「りん」とやらに、もう囚われる必要は無い。
俺が兄の呪縛を解いたように、家守だって解放されていい筈だ。
「おい…あんま泣くな。目ぇ真っ赤になんぞ」
「う…ぐすっ……」
「はあ…」
溜息にビクリと体を震わせた家守を宥めるように背中を撫でてやると、また少しずつ体から力が抜けていく。
やがて泣き止んだ家守は、忠告したにも関わらず目元を真っ赤に泣き腫らしていた。
「ごめ、なさ…服、濡らしちゃって…」
「別に」
「それに、お仕事も…ごめんなさい、」
「いいから、帰ってニケの面倒でも見てやれ」
「うん…」
何度も目元を擦って涙を拭うからタオルを貸してやり、ちょうど乾燥機から上がったワンピースを渡した。
少しすると脱衣所から出て来た家守は、今度こそ完全に涙を止めていて。
「それじゃ、えっと…ご飯、作るね」
「いいって。早くニケの所に帰ってやれ。ニケも連れて改めて来てくれりゃいい」
「でもそれだとご飯遅くなっちゃうし…」
「別にいい。シーズン中でもねぇんだし」
家守はどうしようかとオロオロしていたが、もう一度帰ってやれと伝えると心を決めたようで姿勢を正し頭を下げた。
「それじゃ、ニケも連れてまた30分後に」
「分かった」
「ほんとに今日はごめんなさい。明日からまた頑張ります」
「ああ」
名残惜しそうにしながら去って行くのを見送って、ようやくひと心地ついた。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2024年1月27日 23時
