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「それから…ずっとこうなの。今日みたいな日は、気分が落ち込んじゃって…」
「…そうか」
受け入れたくなかったから、お葬式には出られなかった。出てしまったら、お別れしてしまったら、それで全てが終わる気がして。
終わらせる勇気が無かった。
でもそのままじゃ駄目な事は分かって、何かを変えたくて毎年お墓参りをするようになって。
ずっと家で悶々と暮らしているよりは仕事がある方が良いと思ったから、友人から頼まれたこの仕事も引き受けて。
猫を飼い始めたのも、何かが変わるような気がしたからだ。
その癖に心のどこかでは終わらせるのが怖いから、また雨の日には落ち込んで、翌日には何かが変わることを期待する。
「毎年、お墓参りに行くの。その日だけは黒い服を着て…指輪もして」
「ああ…あの日の、」
「うん。それで…明日にはきっと何か変わってるって思って眠るの。でも…」
期待するだけじゃ何も変わらないのは分かっている。
毎日、写真の中の燐くんに挨拶をする。それは忘れるのが怖いから。
忘れてしまえばきっと終われるんだろうということも、分かっているけれど。
「変わりたい。進みたいって思ってるの。なのにやっぱり、怖くて……」
燐くんは、私を構成するひとつの要素だった。それを手放してしまうのが怖くて動けない。
このままで良いわけがないのに。
溢れる涙がぽたりと落ちて、貸してもらったジャージに染みていく。
頭に掛けられたタオルで泣き顔を隠した。
「今年のお墓参りの後…ここに、来たのは…何かが変わるって思ってたからなの、」
「……」
「今日も…きっと、何かが変わる筈だって思って…」
糸師くんの元で働くのは楽しいから。ここへ来れば何かが変わるんじゃないかと期待した。
糸師くんの不器用な優しさに触れる度、胸が苦しくなる。
「もう…忘れたいのに、」
膝を抱え込んで顔を埋める。小さく掠れた声がこもって聞こえた。
こんなことを聞かせたい訳じゃなかったのに、やっぱり弱音を吐くだけになってしまった。
糸師くんは何も言わずに聞いていてくれたけれど、会話が途切れて次に口を開いたのは彼の方だった。
「…本当に、忘れる必要あんのか」
「え…?」
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時