１２. ページ12
.
「これから、よろしくね」
「ナァーン」
買って、しまった。
こんな予定じゃなかった筈なのに。買ってしまった。飼うことになってしまった。
でも後悔は無い。だって本当に、運命だと思ったから。あの場で買わなきゃダメだと思った。
その子は私の知っている猫ちゃんよりも警戒心の薄い子で、どうやら甘えん坊らしかった。
お兄ちゃんが一緒のお店にいて、いつも甘えていたんだとか。
膝に擦り寄ってくるその小さな頭をそっと撫でて、その愛らしさに胸がいっぱいになる。
「かわいい…」
実家で飼っていたのは三毛猫だったけれど、真っ黒の艶々な毛並みもこれはこれでいいものだ。
ペットショップで揃えた色々なものを整理する傍らで、その子はおもちゃと戯れている。
そういえば、名前を決めなくちゃ。
「何がいい？」
「ニャウ」
「ふふっ…ちゃんと考えてあげるからね」
何だか懐かしい。
あの頃…私の人生で一番幸せだった頃を思い出す。あの頃はいつも飼い猫と遊んでいた。
ああ、思い出さないようにしていたのに、やっぱりダメだな。どうしたって思い出してしまう。
真っ黒な毛並みを撫で付けると次第にその子はうとうとし始め、少ししたら眠ってしまった。
子猫の情緒わからん…
買ってきたばかりの寝床に寝かせて時計を確認すると、そろそろ糸師くんの所へ行く時間。
眠っている間に置いて行くのは気が引けて、結局一緒に連れて行くことにした。
＊
「こんばんは、糸師くん」
「…それは？」
「子猫。今日うちに連れて来たんだけど、ちょっと置いて行くのはどうかなって思ったから。ごめん、置いておいてもいい？」
「別にいい、けど…ケージに入れたままじゃ良くねえだろ。出していい」
「ほんと？ありがとう、糸師くん」
良かった、思ったより好意的に受け止めてくれてるみたい。
ケージを置いて蓋を開くと、いつの間に起きていたのか黒い子猫が飛び出してくる。
あらゆる隙間へ入ろうとするのを何とか宥めて、糸師くんとご対面。
「ほら、ご挨拶して」
「…フン」
「こいつ…！」
子猫は何が気に入らないのか、ふいっとそっぽを向いてしまう。
そのうち慣れてくれたら良いなと思いながら、1人と1匹を置いてキッチンへ向かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2024年1月27日 23時
