おまけ.5 ページ48
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「どう?お母さん」
「可愛いわよ。とっても」
「ほんと?」
アイボリーのドレスシャツに、少し重厚感のあるアンティークっぽいボルドーのワンピース。襟のブローチが光に当たってきらりと輝いた。
同じ色のカチューシャをつけて準備は終わり。
「じゃあ…行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
つるりとしたストラップ付きの黒い靴に足を入れて、玄関扉を開けた。
待ち合わせ場所はあの歩道橋。家から10分くらいの場所にある。
そこへ着いて、スマホに視線を落とした。
『着いたよ』
『ごめん、もうすぐ着く!』
急いでいる犬のスタンプが可愛くて頬を緩める。急がないでいいよと送ったけれどもう遅かったのか、すぐに既読は付かなかった。
待つこと2分かそれくらい。
「Aさん、お待たせ!」
「潔くん。大丈夫、そんな待ってないよ」
駆け寄ってきた潔くんは私を頭から足まで見渡して、溌剌と笑った。
「めっちゃ似合ってる!」
「あ、ありがと」
照れ隠しに髪の毛を払って居住まいを正す。そんな私に潔くんは笑って手を差し出した。
「行こう」
「う、うん」
そっと指先同士が触れ合った。
*
今日は映画を観に行く。伝説的なサッカー選手のドキュメンタリー形式の映画で、潔くんが気になっていたらしい。
飲み物とポップコーンを買って映画館に入り、薄暗い中を気を付けて席を探す。見つけた席に並んで座った。
「いや〜ポップコーンとかジャンキーなもの食べるのマジ久しぶり…!」
「そっか。どんなもの食べてたの?」
「ずっとご飯と味噌汁に納豆だけでさ〜。最後の方はちゃんとしたの食べられてたけど」
「ありゃりゃ…なんか、ドンマイ」
「あ〜うめぇ〜!」
涙を流さんばかりの勢いでポップコーンを口に運ぶから、なくなっちゃうよと笑って止める。なんだか少年のようで少し可愛い。
私もキャラメルポップコーンを口に運ぶと、ほろ苦い甘さが口に広がった。
少しするとスクリーンに上映中のマナーを知らせる映像が流れ、それから館内が暗くなってスクリーンの明かりだけになる。
流れる色々な映画の予告を眺めながら、ふと手を包まれる感覚に目をやる。そっと右手を包む手と指先を絡め合わせれば、隣で潔くんがくすりと笑った。
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瑠璃烏(プロフ) - さっちゃんさん» コメントありがとうございます!悪女書くの苦手で…結局いい子になっちまったです。悪女断罪系もいつか書きたいです!閲覧ありがとうございます!! (5月6日 20時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - 途中から入ってくるマネって、だいたい悪女多いからそのタイプかぁ…とか思ってたらめっちゃいい子だった!面白かったです! (5月6日 17時) (レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 苺さん» ありがとうございます!悪女を書くにはまだ修行が足りない……いつか書きたいと思ってます! (2月13日 8時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - ひとみちゃん、悪女かと思いきやかなりいい子で😩❤️❤️❤️人間味ある感じ?!とても好きです。。!!! (2月13日 2時) (レス) @page41 id: 31ed2e1075 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 彗さん» ありがとうございます! (2月6日 11時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月21日 10時