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趣味のひとつでもあれば、きっと私の生活も変わるんだろう。でも趣味なんて無いし、そもそも何にも興味を持てない。
休日なんてぼーっとスマホを眺めるか、ベッドに寝転んで天井を眺めていたらいつの間にか1日が終わっていることもある。
学校とバイトの間だけ、私は人間らしくいられる。
「何か…おすすめの趣味とか、ない?楽しいこと」
「うーん…ごめん、俺サッカーしか分からないからさ」
「サッカー…」
そんなの学校の授業でやっただけだ。経験者がイキっていたのはよく覚えているけれど、それだけ。
潔くんはスマホを操作して横向きにすると、私に向けて画面を見せてくれた。
「この人、俺の憧れ。ノエル・ノアっていうんだ」
「ノエル、ノア」
流れ出した映像に、知らず意識を奪われた。
吸い付くようなトラップ、正確無比なドリブル、重そうに見える打球は勢いよくゴールネットを揺らす。
サッカーってこんなスポーツだったっけ。こんなワクワクして、もっと見たいって思える競技だったっけ。
画面に釘付けになる私に、潔くんは嬉しそうに笑う。
「すごいでしょ?」
「うん。びっくりした…サッカーって、こんなだったんだ」
「どう?趣味とかになりそう?」
「…分からない。でも、久しぶりに…ワクワクした」
楽しいとか嬉しいとかワクワクするとか、もうどれだけ感じていなかった感情だろう。その感情を噛み締めている私に彼は問う。
「部活やってる?」
「ううん」
「サッカー部、今マネージャーいないんだ。だから部員で仕事回してて。あの、もしよければ」
やってみない?
そう言われて、嫌だと思わなかった。むしろやってみたいと即答できた。その事実に自分でも驚いて、思わず口を覆う。
そんな私に彼はキョトンとして、それからくしゃりと笑った。
「よかった!じゃあ、明日先生に聞いてみてよ。マネージャーやりたいんですけどって」
「うん。あの…ありがとう」
「気にしないで。俺もAさんがマネージャーになってくれたら嬉しい」
人懐っこく笑うその笑顔に、胸がぎゅっと締め付けられた気がした。
「それじゃあ、そろそろ。送ってく」
「いいよ、近くだから。早く帰らないと心配されちゃうでしょ」
「平気だって。帰りにまた変な気起こされたら困るし」
「う…」
ペットボトルの中身を飲み干して、すぐ傍のゴミ箱に投げ入れた。
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瑠璃烏(プロフ) - さっちゃんさん» コメントありがとうございます!悪女書くの苦手で…結局いい子になっちまったです。悪女断罪系もいつか書きたいです!閲覧ありがとうございます!! (5月6日 20時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - 途中から入ってくるマネって、だいたい悪女多いからそのタイプかぁ…とか思ってたらめっちゃいい子だった!面白かったです! (5月6日 17時) (レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 苺さん» ありがとうございます!悪女を書くにはまだ修行が足りない……いつか書きたいと思ってます! (2月13日 8時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - ひとみちゃん、悪女かと思いきやかなりいい子で😩❤️❤️❤️人間味ある感じ?!とても好きです。。!!! (2月13日 2時) (レス) @page41 id: 31ed2e1075 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 彗さん» ありがとうございます! (2月6日 11時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月21日 10時