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「Aさん、親御さんとはよく会うの?」
「はい、たまに。ん…美味しい」
「あらよかった。ひとり暮らしするってなって親御さんに心配されなかった?」
「いえ、特には。元から放任主義というか」
「そうなのね」
それ以上突っ込まれないことに安心する。これ以上聞かれたらしたくない話まですることになりかねない。
口の中のものを飲み込んで、チェストに飾られた写真立てを見遣る。
「うちも、こんなお家だったら…」
呟いた言葉で何かを悟ってくれたのだろうか。お母様が手を伸ばして、そっと私の頭を撫でる。優しい笑顔で言われた。
「いつでも来てくれていいのよ。待ってるから」
「っ……」
どうしちゃったんだろう。最近の私、涙腺が緩みすぎだ。でも泣いて困らせたくないから必死で隠して、口角を上げた。
「ありがとう、ございます」
潔くんはお母様に似た優しい笑顔でこちらを見つめていた。
*
帰り道は車ではなく、潔くんが話したいと言ったので徒歩で帰ることになった。
並んで歩きながら、あーとかえーとか言っていた潔くんがやっとこちらを見て口を開く。
「あの、聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「高ちゃんと、仲良いの?」
「高里くん…?いや、普通だと思うけど」
「そ、そっか。いや、なんか距離近い気がしてて、気になっただけなんだけど」
そっか、よかった。そう言って潔くんは息を吐き出す。何が良かったのか分からないけれど、私も合わせて頷いてみた。
「それだけ?」
「う…それだけ、です」
「ははっ…いや、いいんだけどさ」
この後きっとまた、1人で寂しく涙を流すことになる。それが少しでも先延ばしに出来ればいいのにと、わざと歩くペースを落とした。
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瑠璃烏(プロフ) - さっちゃんさん» コメントありがとうございます!悪女書くの苦手で…結局いい子になっちまったです。悪女断罪系もいつか書きたいです!閲覧ありがとうございます!! (5月6日 20時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - 途中から入ってくるマネって、だいたい悪女多いからそのタイプかぁ…とか思ってたらめっちゃいい子だった!面白かったです! (5月6日 17時) (レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 苺さん» ありがとうございます!悪女を書くにはまだ修行が足りない……いつか書きたいと思ってます! (2月13日 8時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - ひとみちゃん、悪女かと思いきやかなりいい子で😩❤️❤️❤️人間味ある感じ?!とても好きです。。!!! (2月13日 2時) (レス) @page41 id: 31ed2e1075 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 彗さん» ありがとうございます! (2月6日 11時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月21日 10時