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父と母はいつも優しい。1人暮らしを許してくれて、お金を出してくれて。たまには帰って来なさいと言ってくれて、帰って来ると優しく迎え入れてくれる。
でもそれが上辺だけの優しさだと、私は知っている。
「部活に入ったんだって?マネージャーだったか」
「うん。サッカー部の」
「そうか。どんなことをするんだ?」
「色々。ドリンク作ったり、備品の管理とかスコア付けたりとか」
「へえ、大変なんだな」
そんなの本当は興味ないくせに、お優しいことだ。なんだか息が詰まりそうで、口の中に入れた野菜を大して噛んでもいないのにゴクリと無理やり飲み下す。
「お姉ちゃんも部活に入りたがっていたから、きっと喜んでるな」
「そう、かな」
お姉ちゃん。そういえばお姉ちゃんもそんなこと言っていたような気もする。部活に入ってたくさん友達を作りたい、とか。
久しぶりに帰って来たと言うのに大した会話もせず、ただ黙々と箸を動かした。
*
久しぶりの自分の部屋は埃っぽかったけれど、布団は洗濯してくれていたみたいだから迷わずに沈み込む。
ゴロリと寝返りを打って天井を見上げた。
「あーあ…」
帰ってくるんじゃなかった。何か理由をつけて断るべきだった。なんて思ってももう遅い。『私』を愛してくれることはないのだとまた思い知ってしまったから。
ぼんやりと立ち上がって部屋を出て、リビングに顔を見せてから家を出る。
暫く歩いた所にある河川敷。
秋になりかけの乾燥した空気が鼻や喉をチクチクと突き刺すようだ。その空気を思い切り吸い込んで。
「うわああぁぁぁーーーっ!!」
空気を全部吐き出して、反動で吸い込んだ空気が喉に引っかかって少し咳き込む。周りからの視線なんて気にならなかった。
はあ、はあ、と肩で息をしながら視界がじんわりと滲み始める。
つらいとか苦しいとか悲しいとか。そんな陳腐な言葉でいくらでも飾れるこの虚しさ。どう表現したらいいのか分からない。
本当に、帰って来るんじゃなかった。
ああ____彼に会いたい。
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瑠璃烏(プロフ) - さっちゃんさん» コメントありがとうございます!悪女書くの苦手で…結局いい子になっちまったです。悪女断罪系もいつか書きたいです!閲覧ありがとうございます!! (5月6日 20時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - 途中から入ってくるマネって、だいたい悪女多いからそのタイプかぁ…とか思ってたらめっちゃいい子だった!面白かったです! (5月6日 17時) (レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 苺さん» ありがとうございます!悪女を書くにはまだ修行が足りない……いつか書きたいと思ってます! (2月13日 8時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - ひとみちゃん、悪女かと思いきやかなりいい子で😩❤️❤️❤️人間味ある感じ?!とても好きです。。!!! (2月13日 2時) (レス) @page41 id: 31ed2e1075 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 彗さん» ありがとうございます! (2月6日 11時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月21日 10時