検索窓
今日:11 hit、昨日:6 hit、合計:5,875 hit

ページ17

Aのお母さんがいた。見つからないように、こっそりと部屋に行こうとすると、後ろから声がかけられる。

「坂田くん、話があるの」

「……わかりました。手、洗ってからでいいですか?」

いいよ、と言われたので、洗面所へ駆け込んだ。鏡に映る俺の顔は、あまりにも酷かった。無心で蛇口をひねって、冷たい水が手にあたる。その感覚すらも、なにもかも嫌だった。手を洗い終わってリビングに戻ると、母の姿はなかった。その代わり、Aのお母さんだけが残っていた。

「……あの、話って」

彼女のお母さんの前に腰かけた。Aのお母さんの表情も、決して良いとは言えないものだった。目の下にはうっすらと隈があるし、目の辺りは赤く腫れている。俺が座って、すぐAのお母さんは俺に言った。

「これをね、Aに坂田くんに渡すように頼まれてたの」

そう言って机の上に置かれたのは、赤い袋でラッピングされた可愛らしいもの。それをAのお母さんが差し出してくる。俺はそれにずっと視線を落としたままだった。そうしていると、彼女のお母さんが話始める。

「あの子、寿命のこと、坂田くんだけには自分から伝えたいって言ったの」

「それは、あの子の荷物を片付けているときに見つけたものでね、ほら、坂田くんへって書かれてるでしょ?」

こく、とその問いに頷く。中に入っている封筒を見ると、「優へ」と可愛らしい字で書かれていた。それに思わず涙がこみ上げそうになる。でも、ここで泣いてしまったらきっと迷惑をかけてしまう。

「一番最初に見つけさせてしまったこと、本当にごめんなさい」

「そんな、別に謝られることじゃ、」

ふるふるとAのお母さんは首を横に振った。しばらくの間、重い沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはAのお母さんだった。

「あんまり話してもあの子に怒られそうだから……ここまでにしとくね」

「私はもう帰るから、それ、開けてあげて」と言い残して、Aのお母さんは俺の母さんに挨拶して帰っていった。俺は受けっとったそれを部屋に持ち込んだ。

「俺に開ける権利、あるんかな」

しばらく「優へ」という文字と睨みあったけど、俺は開けることにした。彼女が俺に向けてくれたのなら、俺に開ける権利は少なからずともあるはず。貼ってあったシールを外して、俺は中身を見た。

・→←・



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (21 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
44人がお気に入り
設定タグ:浦島坂田船 , となりの坂田。 , 歌い手   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:天音 | 作成日時:2022年12月14日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。