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「……たる!わたる!」
「………っ!」
俺を見つめながら、彼女は言った。怪訝そうに俺を見つめる彼女は、俺がさっき抱きしめていた緑色のカーディガンを羽織っていた。辺りには陽気な音楽が流れている。また夢なのかもしれない。でも、目の前にいるのは、紛れもない俺の大好きな彼女だった。
「ほーら!ヨーヨー釣ってくれるんでしょ?いーくーよ!」
俺の手を力いっぱい彼女はひく。気が抜けていて、簡単に引っ張られて仕舞うくらいに、俺は動揺していた。辺りには誰もいなくて、屋台がポツリとそこに有るだけ。まるで飾りのように。ヨーヨー釣りの屋台の前にきた俺たち。彼女が誰かにお金をやっていて、誰にやっているんだ?と思い、彼女がお金を手渡していた人の方を見ると、さっきまでいなかったはずのおじさんがいる。
俺を不思議そうに見つめるおじさんは、まるでさっきからここにいたと言わせるような目をしていた。
「やった!取れた!」
そんな俺の隣で、彼女はヨーヨーを二個取りしていた。「おじさんじゃーねー」と手を振って、俺の手を取り、彼女はまた走り出していった。どうしてもそのとき俺には、彼女の小さな背が"この世界が終わらないように"急いでいるようにしか見えなかった。
どうして今日は、俺の方を見てくれないの?
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作者名:天音 x他1人 | 作成日時:2022年11月26日 21時