82話 ページ3
「____辱めたくなかったから!!前の日に名頃先生は行ったんやと思いますけど…!以前、名頃先生に聞いたことがあるんです。なんでそんなに皐月会を目の敵にしてはるんですかって。」
それはまだ紅葉さんが今より幼い頃の話だった。
名頃は、少しだけ切なげに、でも愛おしそうに語ったらしい。
そうでもしないと彼女…皐月と戦えないからだと。ただ勝って、“すごいなぁ”って褒められたいだけだと。
____そう初恋の相手に。
「は、初恋…?」
「そうです、名頃先生は皐月さんに憧れてかるた始めはったそうですから」
唖然とする阿知波会長に、紅葉は頷くようにして話を続けた。
「…けど、目の病であと1年しかかるたできひんってお医者様に言われて…、そやからあんな強引なかるたにならはったんやと思います」
そこまで言った彼女は、寂しげに目を伏せて「…先生には、時間がなかったから」と付け足した。
「じゃ、じゃあ前日の勝負で実力を見せて、みんなの前では皐月に勝ちを譲るつもりだったというのか?」
無言で頷く紅葉に、阿知波会長が顔を青ざめた。
「面倒を見られへんようになってしまう、うちも含めた自分の弟子たちを皐月会に引き取ってもらう理由付けをするために…」
「そうとは知らず皐月さんは、名頃さんを殺してしもたっちゅうわけか」
「そ…そんな…っ」
服部くんの言葉に、阿知波さんの手に握られていた起爆スイッチが地面に転がり落ちる。
すすり泣く阿知波会長の「わ、私はなんてことを…」という後悔の含んだ声。
____その時だった。
メキメキと嫌な音が鳴り始めたかと思えば地面がぐらりと揺れたのは。
「なんや!?」
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作者名:チョコミントティラミス | 作成日時:2023年8月16日 16時