舞台袖から-3 ② (ページ8)

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高校に入学して桜がちった頃、母さんが私の度肝を抜いてきた。

「母さん、しばらく海外行ってくるわね〜」

それは、ちょっとそこまでのノリで、バカでかいスーツケースを持った母さんが言った言葉だった。

私は、危うく行ってらっしゃいと言いそうになったのをグッと堪えた。

最近何かゴソゴソしているとは思っていたが、まさか海外に行く準備をしているとは思ってもみなかったわけで、寝耳に水な話に私は動揺しながら、何とか声を絞り出した。

「それって、いつ帰ってくるの？」
「とりあえず1周してからかしら？」

1周、何を？まさかとは思うが、地球を……？

いくらお気楽な母さんでも、まさかそんなことは、と思いながらも一応、地球を？と尋ねると、母さんはいい笑顔で、もちろん！と言ってのけた。

「嘘でしょ！？」
「大丈夫大丈夫、Aの生活費は毎月口座に入れとくし、時々様子見に帰ってくるから」

生活費がどうとかの問題では無い。一体どこの世界に高校生の娘1人を置いて世界1周旅行に行く母親がいるというのか。

そんなことを急に言われてはいそうですか、なんてなるはずもない。

私は母さんに何とか思いとどまってもらおうと色々言ったが、自由人な母さんは何処吹く風。何を言っても暖簾に腕押しで全く効果はなかった。

その後、私の必死の説得も虚しく、結局母さんは世界規模の浮浪旅に出てしまった。なんでも、投資で知りあった世界各国のお友達に会いに行くらしい。

私に家事を仕込んだのはこのためだったのかと察するのは容易だった。