舞台袖から-3 ② (ページ7)

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ぼうっと立ち尽くす私の背をそっと撫でながら、母さんはとりあえずご飯でも食べようかと言った。

その声にハッとして辺りを見ると、父さんの友人はもう家からいなくなっていた。

あれ、夢だったのかな、なんて思ってしまうほど何の変哲もないない自宅のリビングで、大切なものが欠けてしまったような、そんな感覚だけが私に現実を叩きつける。

「父さん、帰ってこないの……？」

出た声は私が思っていたよりもずっとか細くて、震えていた。

「……きっと、全部終わったら帰ってくるわよ」

応える母さんの声も、いつもと違って弱々しい声だった。

私にぽっかりと空いた穴が塞がるはずもなく、ただ時間だけが過ぎ去っていく。

父さんは元々アメリカに単身赴任で家にいなかったから、消息不明になったというのに、私の日常は特に変わりはしなかった。

家にある父さんの部屋は、母さんが定期的に掃除していたおかげで、部屋の主はいないのに綺麗なままで、父さんが消息不明だなんて何か悪い夢なんじゃないかと何度も思った。

ただ父さんからの連絡がなくて、時々帰ってきていた父さんが帰ってこなくなっただけ。ほとんど変わらない日常が酷く嫌だった。

あれは夢であって欲しいと願う私を置いて、時間は冷酷な程に単調に進み続ける。

気付けば1年が経ち、私は最後の中学生活を送り始めていた。

多分その頃だ。母さんが、私に家事を仕込み始めたのは。

炊事、洗濯、掃除、もともと色々手伝いはしていたが、全部一人でできるように仕込まれた。

それ以外は、やっぱり私の生活に大きな変化はなく、高校は近いからという理由で江古田高校に進学した。