舞台袖から-3 ② (ページ38)

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黒羽くんの合図を聞いて、タブレットをちょいちょいっといじってレストランの回転速度を元に戻す。

どうやら、奴らからジョディさんと宝石を守ることに成功したらしい。繋ぎっぱなしのインカムからは、ジョディさんの話し声が聞こえている。

2人の会話を何となく聴きながら、15階に隠しておいたパソコンを回収する。

さっきまでタブレットをいじっていた場所に戻り、ハッキングの後片付けをしていく。

黙々と作業をしていると、ジョディさんと話していた黒羽くんの声が少し大きくなった。

『ご覧なさい……あなたの祖父、ジェームズ・ホッパーがこの世に残した最後の』

息を吸う音が間に挟まった。

『マジックだ！！』

きっと、赤い涙の例の仕掛けを作動させたのだろう。

宝石を通った炎の光が屈折して写真が浮かび上がる仕掛け。イギリスの最も偉大なマジシャンだったジェームズ・ホッパーが孫娘へ贈る奇跡。

いつの間にか、話し声が聞こえていたインカムは静かになっていた。

私も、息を飲むほどの奇跡を見てみたくなって、パソコンを閉じてそっと階段を上る。回転レストランの天井が見える所まで来て、私の足は止まった。

なるほど、確かにこれは奇跡だ。

レストランの円形の天井には、そこを埋めるほどたくさんの写真が広がっていた。映し出されている幼いジョディさんは、心の底から楽しそうにマジックをしていた。

写真に混ざって手紙らしきものも映し出されていた。ここからではきちんと文字を読めないが、ジェームズさんからジョディさんへの手紙なのだろう。ジョディさんが食い入るようにそれを見つめていた。

ふとジョディさんから横に視線をずらすと、黒羽くんが目に映った。彼はある一枚の写真を見上げて誇らしげな、清々しいような顔をしていた。

彼が見上げる写真には、1人の日本人が写っている。どこか黒羽くんと似ているその人物は、恐らく彼のお父さんなのだろう。

……私が行ったらお邪魔かな。

ふっと力が抜けた感じがした。

インカムの電源を切る。でも、まだ少しこの雰囲気に浸っていたくてそっと壁に背を預けて目を瞑る。

「私、もう一度やってみるわ！マジックも記述団も」

力強い声が静かなレストランに響いた。

これ以上ここにいては下りてくる彼らに会ってしまいそうなので、私は背中を預けていた壁から離れ、そっと階段を下りた。