舞台袖から-3 ② (ページ32)

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非常階段を降りていくと、下の方から微かに争うような声と音が聞こえた。

5階から最上階は10階分あるので結構かかると思ったが、意外に速いみたいだ。

レストランの客を逃がすには銃を持った男が来ていることを正直に伝えるしかないだろうが、ここは日本、銃を持っている人が居ないはずの国である。言葉で言うだけでは信じて貰えないだろう。

私はレストランで優雅にディナーを楽しむ客とそこで働く従業員に、本当に銃を持った男がいると思わせなければならないのだ。

信じさせるにはどうすればいいか。簡単な話だ、そう思わせるに足る何かがあればいいのである。

先程拝借したナイフをバッグから取り出す。

ふうと息を吐いて、いつもよりうるさい心臓を落ち着かせる。

少々痛いだろうが、手っ取り早い方法はこれしか思いつかなかった。

「ったあ……」

ナイフを持った手を動かすと、腕に1本赤い線が走った。

つうっと赤い液体が腕を滑り落ち、ぽたぽたっと数的床に落ちた。

深くは無いが、ナイフで腕を切ったのだ。痛いだろうとは思っていたが、予想より痛くて、思わず声が漏れた。だがまあ、これで準備は整った。

銃声が近付いてくるのを感じながら、私は非常階段を駆け上がる。

非常階段から勢いよく抜け出し、レストランへと転がり込む。すぐに、近くにいた人の視線が私に向く。ウェイターが心配そうに近寄ってきた。

「助けて！！！じゅ、銃……！！銃を持った男が……！！」