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寺井さんが、店の奥から慌ててノートパソコンを持ってきてカウンターに置く。
早く確かめたくてたまらないだろうに、律儀に触ってもいいか確認を取ってくれた黒羽くんに、好きなようにどうぞと促す。すると、彼はそのままUSBメモリをパソコンに差し込んだ。
2、3秒して、フォルダが開かれる。その中にはさらに複数のフォルダがあり、それぞれに名前がつけられている。
上から作製された日付順に並べられたそれは、全てここ一カ月でキッドが狙ってきた獲物の名前がつけられている。
直近の獲物である、天使の王冠と名前が付けられたフォルダを黒羽くんが開いた。
フォルダの中にはファイルが2つ。容量が大きいほうを開くと、数秒かけて読み込んでから、3Dの立体地図が現れる。
「じゃあ、やっぱり……」
黒羽くんが私の方を見る。ばちりと目が合った。
声に出す代わりに、そっと首を縦にふって肯定する。すると、黒羽くんは緊張が解けたのか、大きく息を吐き出して脱力した。
ちらりと寺井さんの方を見ると、彼もどこか力が抜けたような様子だった。
「まじか〜、まじでAなのか……」
へなへなとカウンターに寄りかかりながら、黒羽くんは言う。どうやら、問題が解決して一段落ついたと思っているようだ。
しかし、黒羽くんの方は解決したかもしれないが、私はまだ解決していない。さっさと答えてもらわねば困る。
「で？ 黒羽くんは？」
そう尋ねると、黒羽くんは一瞬、きょとんとした顔をした。本当に私のことを確かめることしか考えていなかったらしい。
彼は少し考えてから思い出したように言った。
「ああ、そうだ。怪盗キッドはオレだ」
彼の表情は、普段の教室では全く想像がつかないような、真剣なものだった。
「そう……」
ああ、やはり黒羽くんがあの白い彼だった。当たって欲しいような、外れてほしいようなそんな考えが今肯定されてしまった。
ここに来てすぐの頃のように、また沈黙が流れた。
少しの気まずさを何とかしようとカップを持ち上げたが、中身はさっき飲んだので空っぽだった。
どうしようかと思いながら、もう一度彼の様子を伺う。
やはり真剣な顔の彼を眺めてみる。すると急に笑いが込み上げてきた。
キッドはあんなにキザなのに、その正体はクラスのムードメーカー。
その事実がなせ面白くて、笑い声をあげる。すると黒羽くんは不審なものを見るような顔をしながら私を見た。その顔がまた面白くて、私はさらに笑ってしまった。
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作者名：もへじ | 作成日時：2023年7月3日 0時
