舞台袖から-3 ② (ページ23)

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私はふつふつと沸いてくる怒りを感じながら、それでも手をぐっと握って堪えた。今、彼は何を言ったのか。

聞き違いか？いや、聞き違いであってくれと心の中で願いながら聞き返す。

「ごめん、もう1回言ってくれる？」
「昨日言ったのやっぱなし」

昨日言ったのやっぱなし。

やっぱなしということは、もともとするつもりだった事を無かったことにするということだろう。

何を？昨日言ったことだ。昨日言ったこと、黒羽くんが昨日言ったことってなんだっけ？ああ、そうだ、次の獲物だ。確か、ホッパー奇術団が所有する、世界最大級のルビー。昨日からほぼ徹夜で調べたものだ。

名前は赤い涙(レッド・ティアー)だったかな？いや、名前なんてとりあえずどうでもいい。

今、黒羽くんはやっぱなしと言った。つまり、宝石を盗らないということ。

頭が痛くなってきたので、こめかみをぐりぐりと抑える。

そして私は大きく息を吸った。肺が下に引っ張られて、空気が満たされる。

これ以上入らないぐらい満タンになって、一瞬息を止める。それから、それを思いきりはき出した。

「黒羽くん、私、昨日ほぼ徹夜で調べたの」

こめかみから手を放し、今にも叫び出したい衝動をぐっとこらえて、冷静に、口角を上げてニッコリと笑いながら言う。

黒羽くんはそんな私にただならぬものを感じたのか、びくりと肩を揺らした。

彼の表情は見る見るうちに青ざめていく。冷や汗だらだらの彼に、今度は笑顔を消して真顔を向け、言葉にはせずに圧をかけてみる。

「すみませんでした……」

黒羽くんは小さくなってそう言った。