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さて、珈琲も飲み終わったことだし、そろそろ話をしようか。
「良いお店に連れてきてくれてありがとう、黒羽くん」
隣を見ずにそういうと、黒羽くんは少し驚いたらしく、一瞬間が空いてから、ああ、とはっきりしない声で言った。
彼はまだ考えているらしい。つい昨日まで私もあんな風に悩んでいたのかと考えると、不思議な感じがする。
なんだか少し面白くて、くすっと小さく笑みがこぼれた。
「お礼、になるかはわからないけど……」
カウンターに頬杖をついて、顔を横の黒羽くんに向ける。
彼はゆったりとこちらに顔を向けた。
今日初めて視線が交わる。いや、もしかしたら私が黒羽くんと目を合わせるのは、これが出会ってから初めてかもしれない。
「黒羽くんが気になってること、教えたげる」
黒羽くんは刹那の間目を丸くしてから、息をのんだ。
私の言うことを一語一句聞き逃すまいとしているのか、彼の姿勢がやや前傾になった。
私は、頬杖をついていた手で頬を軽く押し、ほんの少し弾みをつけて姿勢を元に戻す。
それから、足元においていた通学鞄を持ち上げ、膝の上に置いた。
私が何か言うのだと思っていたのだろう。黒羽くんは拍子抜けした顔で不思議そうに鞄を開く私を見ていた。
鞄の中から、普段は家においている小さなポーチを取り出す。白を基調にして青が装飾に使われたそれは、たまたまお店で見つけて白い彼を連想して買ったもの。
黒羽くんもその時の私と同じ人物を連想したのか、そのポーチを見たとたんに、訝しげに顔をしかめた。
ポーチを開けて取り出したものを、コトッと小さく音を立ててカウンターに置く。
置かれたそれを見た黒羽くんは息をのんだ。
私が置いたのは白いUSBメモリ。
つい一か月ほど前に、キッドの予告現場付近で売られていたのを見つけ、丁度いいからと買ったキッドグッズの一つ。
白いUSBメモリの端には、シルクハットをかぶっていたずらっぽく笑う、おなじみのマーク。
このUSBメモリはキッドとの情報交換用に使っているものである。
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作者名：もへじ | 作成日時：2023年7月3日 0時
