3-01 答え合わせと理由 ページ2
(苗字推奨)
ピンと張りつめた雰囲気の中、bgmのジャズだけが、穏やかにこの静かな空間を満たしていた。
匂わせ事件翌日、学校終わりに、ビリヤードバーのブルーパロットに私をつれてきた黒羽くんは、知り合いらしい初老のバーのマスターにジュースを頼んで以降だんまりである。
カチャと小さく音を立てて、私がお願いした珈琲がカウンターに置かれる。
ゆらゆらと白い湯気を立てるそれを、一口そっと口に含む。すると、よく知った味がした。
ほう、と一息ついた後、いつもと変わらないおいしさに、自然と頬がやんわりゆるんだ。
「おいしいです」
カウンターを挟んで正面に立っているマスターに言うと、彼は嬉しそうに頬を緩めた。そして、おもむろに口を開いた。
「そういえばご挨拶がまだでしたね。私、寺井黄之助と申します」
マスターは寺井と名乗った。相手が名乗ったのに私が名乗らないというわけにはいかないので、私も自分の名前を言うことにする。
「……初めまして。AAです」
一瞬、なんというか迷って、結局「初めまして」を使った。
ブルーパロットには何度も来ているが、私自身として来るのは初めてなので、あながち間違ってはいないだろう。
再び沈黙が三人の間を占拠する。
隣に座る黒羽くんは難しい顔をしていて、グラスに刺さったストローで氷をカラカラとまわしている。
彼はこのまま、私が何か言うまでだんまりを決め込むつもりなのか、それともどう切り出して何を話すか考えているのか、私にはわからない。
左手でカップを持ち上げると、芳醇な香りが私の鼻腔を満たした。
険しい顔の黒羽くんのことは放っておいて、そのままカップに口づける。ミルクも砂糖も混ぜていないそれは、程よい苦味とコク、上質な酸味で私を満たした。
少し飲んで、一息ついてを繰り返す。ここにきてどれほど立っただろうか。
少しずつ飲んでいたカップの中の珈琲は、もうあと一口分になっている。黒羽くんの前に置かれたグラスは、すっかり氷だけになっていた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
最後の一口を飲み込んで、カップを置く。それから、カウンター越しの寺井さんに言うと、寺井さんはありがとうございます、と一言。
私はそれににっこりと笑顔を向けて小さく頭を下げた。
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作者名：もへじ | 作成日時：2023年7月3日 0時
