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美術館を出る前にトイレに行って帰ってきてから、青子の様子がおかしい。何かを考えているようだ。
トイレに行く前まではどの絵がどうだったとか、宝石が綺麗だったとか色々喋り続けていたのに、戻ってきてからはそれがピタリと止まっていた。何かあったのか尋ねてもんーん、なんて言って何も言わない。様子がおかしい上に、何を聞いても別に何も、なんて返されるのに腹が立ち、つい大声で叫んでしまった。
「だあああ!! ったく、何があったのか教えろって言ってんだよ!!」
周りの人が驚いてこちらを向いているが気にしない。どうせすぐこちらから視線を外すだろうから。青子は突然の大声に驚いたのか目を丸くして漸くこちらを見た。
「びっくりした……もう! 驚かせないでよ!!」
「おめーが何聞いても適当に返事するからだよ!」
そう言い返すと彼女はう……、と一瞬つまり、また考え始める。それが腹立つんだよ!と思い、もう一度叫んでやろうと思ったとき、彼女がねえ、と話を切り出した。
「広瀬くんってさ、彼女いるの?」
いつになく真剣な表情で尋ねてくる。なぜだかその表情にドキリと心臓が跳ねる。なぜ青子はそんなことを真剣に尋ねてくるのだろうか。まさか、翔の事が……?そう心配になる。もしかしたらオレと青子は両想いかもしれないと思っていたぶん、さらに不安になる。
「な、んで……?」
辛うじて絞り出せた、カスカスな声でそう聞いた。
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作者名:もへじ | 作成日時:2023年4月4日 22時