【文スト】彼に酔しれ堕ちていく【短編集】 (ページ27)

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物好きな彼【江戸川乱歩】ページ27

響様リクありがとうございます！

あ、とある作品をラストスパートかけるので更新速度が低下します。

もとから？聞こえんよ。←

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何度私はこの光景を目にしたら済むのだろうか。

暗闇の中。

目と口はタオルで塞がれている。

因みに犯人は判っている。

目の前で、優雅に好きなものを食べながら回転椅子でクルクルと回っては私を見下ろしているに違いない。

そして度々、注がれる鋭い言葉。

「ねェ、もう一寸苦しそうにしてよ。
　僕、まだ足りないんだけど。」

何時ものお調子者な声ではない。

ドスの効いた暗い、然し何処か惹かれてしまう声。

「放置じゃ足りない？痛いのがいい？」

私は首を横に振った。

別にマゾな訳ではない。

痛いのは厭だし、放置や無視なども当然厭である。

只、私は彼の"甘いコト"が好きなのだ。

「…気持ちいいのがいい？」

静かに首を縦に頷いた。

多分、こうして本人に直接聞く所にも彼は優越感と快感を覚えているのだろう。

私だって、どちらかと云えばそっち側なのだ。

だが、彼は何時も決まって、

「やっぱり、普段サドで気が強いAを頷かせるのはいい気分だよ。」

と、カラカラと笑う。

私は何時もこうされる時、何故か手や足は拘束されない。

曰く、素振りが見えないと愉しくない、だそうだ。

腕を上げて、彼を求める。

これ以上、放って置かれたら可笑しくなりそうだ。

自分が自分ではなくなって、光を見つけることが出来なくなりそう。

すると彼の生身に私の指先がかすった。

「駄ァ目、まだ君は"完成"じゃない。」

"完成"とは何か。

それは未だに判らない。

完成に近づけば、何時も誰かしら此処の部屋に来て邪魔をしに来るからだ。

……邪魔？

私はその彼等の善意を邪魔だと感じている？

目の前で私を見て楽しんでいる彼に、何をして欲しくてこうしている？

…嗚呼、駄目だ。

もう、私は"完成"したようだ。

「…うん、賢いねAは。
　じゃあ賢い君にはご褒美だ。」

彼が椅子から降りたようだ。

すると私の腕を引っ張ってたたせてきた。

私は立ち上がるが、相変わらずタオルは取って貰えない。

すると途端、フィンガースナップが部屋に響いた。

「ほら、"僕の手間を省いて"。」

彼の只の言葉が、今の私の頭には魔法のように聞こえた。

脳が一種の錯覚を起こしていて、体が勝手に動いた。

「ほら、自分で僕が欲しいところを解さないと。」

彼は生粋の物好きだ。