何もしてない ページ6
ちょうど張り詰めていた糸が切れたように、Aの緊張が一気に解けた。
喉の奥から熱いものが込み上げてくる。
何度も込み上げてくるものを、ゴクンと音をたてながら飲み込んでいたが･･･とうとう･･･Aの瞳から涙が溢れ出した。
『･･･私･･･私ね･･･何もしてない･･･』
『うん･･･。』
『･･･本当に･･･私･･･突き落としてなんか･･･ないの･･･』
『うん･･･。』
『･･･でも･･･みんな･･･私が･･･』
『大丈夫･･･分かってる･･･。』
『･･･私じゃ･･･ないのに･･･』
Aは、必死にヒチョルにしがみついて泣いた。
1度堪える事に失敗した涙は、止まる気配すらみせなかった。
まるで小さな子供の様に、ヒチョルにしがみついて泣く。
ヒチョルはそんなAを腕に閉じ込めて、背中を優しく叩いてあげた。
･･･その傍らにいたキュヒョンは、その様子を見ていられず、ずっと目を逸らしていた。
視界に入らない様に、身体を丸めて手を額に当てる。
それでも耳に入ってくるAの嗚咽。
何か他の事を考えようとしても、今目の前で繰り広げられた2人の様子しか浮かんでこない。
キュヒョンは、奥歯を噛み締めた。
本当なら･･･その役目は真っ先に駆け付けた自分だったんじゃないのか？
そんな思いが駆け巡る。
でも身体が動かなかった･･･。
あの時･･･Aを心配してやる事ができなかった。
キュヒョンは、更に強く目を閉じた。
苦しくて、苦しくて･･･できる事なら、今すぐこの場から･･･いなくなりたいと思った。
そんな時、また扉が開いた。
Aがビクッとして、ヒチョルにしがみつく。
『あ･･･驚かせてしまったね･･･。』
ハンはそう言って、申し訳なさそうにように微笑んだ。
『そろそろ、移動するけど･･･』
『俺もっ･･･俺も一緒に行くっ。』
ヒチョルが、ハンに詰め寄った。
その勢いに困ったように笑うと
『そうだねぇ･･･。
本来なら、良いよと言いたいところなんだけど･･･。』
ヒチョルとキュヒョンを交互に見る。
『なんせ、君たちは目立ち過ぎる。』
『でも･･･』
『ちゃんと･･･』
ハンがヒチョルの言葉を、穏やかに遮った。
『彼女を家まで送り届けるから、ここは僕に任せてくれないかな？』
ヒチョルは、一瞬悩むように目を伏せると
『分かり･･･ました･･･。』
不安を隠せないでいるヒチョルをみて、Aがバッグから何かを取り出した。
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作者名：希愛 | 作成日時：2014年6月29日 0時
