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ㅤギュウ。ちいさく埋められていた隙間が、加減を忘れたように我儘に空気を押し出す。頭がぼうっとするよりはやく、四股が張った糸のようにピンと伸びたまま硬直。目の付近が燃えるように熱くて熱くてそれで痛くて、仕方がなくて、まさに遺体を焼かれているような憎たらしい灼熱がわたしを襲う。
鬱サンがわたしの首から手を話そうとする素振りは未だ見えず。勢いと欲望任せに血管の浮きでた細い腕がすこしだけ痙攣しながらチョーカーごと潰す。甲高い醜い声が窒素へと変わり、ザラザラしたなにかで喉が擦られているんじゃないかと思うほど、出すのにも一苦労なヤギみたいな声が飛び出してくる。
「痛いでしょ？ㅤな、それが俺の痛みなんやで、なあ、しかばねちゃんㅤしかばねちゃんのハジメテはな、ぜんぶ俺だけなんよㅤぜんぶ、ぜんぶやでㅤ息をするのも、死ぬのも、愛すのも、致すのも、こうやって首を絞めるのも、ぜんぶ、俺だけのものにしたってやㅤな？ㅤええよな？ㅤええに決まっとるよなㅤゴメンな、わかっとんねんㅤ流石にこのまま殺しちゃうのはしかばねちゃんもヤだよな、ㅤウンㅤ俺も一緒に死んだるからな」
わたしが苦しそうな表情を見せるばかりに、鬱サンは弁解を挟む隙間もない自分本位の毒をこれでもかと吐き出した。
一緒に死ぬとか、ハジメテが欲しいとか、今まで見たこともなければ聞いたこともない等身大の擬態が鬱サンの形をしたなにかから顔を覗かせて、のっぺりと笑う。
それは手に取って眺めたい眼中のレンズのような、暗赤色に沈めて溶かしてしまいたい魚のような、生臭くて人間らしい鬱サンの恋。
全身を駆け巡った言い表しきれない気持ち悪さに、抑えきれない喉元の苦味を我慢しながら頷きを返す。
「あㅤゴメンな、首酷くしちゃった」
「ぇ、いや、あ、ハイㅤ大丈夫」
じゃないけど。
酷くしちゃった、なんて謝る気もなければ偽る気すらない吐露のような顔。今こそ鏡で見てしまえばいいのに。
鬱サンが軽く振ったベルから銀食器が落ちる音がして、眩しいくらいに純情な光が指の隙間からこぼれ落ちた。
ちりん
くらり。泣きたくなるくらい懐かしい眩暈が、鬱サンの微笑みと共に闇へ落ちていった。
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作者名：眼窩 | 作成日時：2022年9月4日 5時
