し ページ2
￣￣￣
「·····ぃ、おーい！A！」
「·····？ はーい、·····って、え」
すっかり酔いの回ってしまった午後。遠くから私を呼ぶ声がして、聞こえる方向に振り返ると、誰かの肩に手を回した友人が見えた。
「なんか、果物の試食？やってるらしぃ。美味しいからさ、Aも食べてみてよ！」
リンゴに似た果物を乗せた皿を持つ男の人の肩に腕を回し、幸せそうな笑顔で果物に指を差す友人。男の人もニコニコ笑顔で皿を差し出してくる。
「あ、ああ·····じゃあ、一つだけ···」
その雰囲気に圧倒され、爪楊枝を摘む。シャク、水分がじわりと口内に溶け込む。鮮やかな赤い皮に、ほんのり甘みのある薄黄色の実。見た目も味もパーフェクト。
「·····ん！、美味しいですね、コレ」
「そぉですよね、ありがとうございます！」
今度は私にベッタリ張り付く友人を横目に、皿を持った男の人は帰って行く。橙色に染まった空を見て、もうそろそろ帰るよー、と薄ら赤に染まった頬を柔らかく叩く。
何かよく分からないボヤキを数回して、突然弾かれたようにハッ、と目を覚ました友人。勢いよく私の肩を掴み、ぶんぶん前後に揺らしてくる。
「ね、ねぇ！あの果実は！？果実はどこ！？」
「·····ぇ？」
「果実だって！Aも食べたでしょ？あの美味しい果実！」
果実果実と取り憑かれたかのように繰り返す友人は、何も言えない私を気が済むまで揺らしたあと、ふらふらと覚束無い足取りで紅葉の奥のほうへ消えていった。
「え、なに、あれ·····」
狂ったように·····いや、狂った。狂った友人は、もうすぐ空も暗くなって足元も見えなくなると言うのに、先程食べたあの甘い果実を求めてどこかへ行ってしまった。なんで、急に。
とにかく、探さなきゃ。
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作者名：眼窩 | 作成日時：2021年12月11日 2時
