愛の砂時計 ページ16
落ちきったなら、おしまい
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「悪役の手を、取ってはくれませんか」
彼は所謂、悪役。そして私は、ヒロイン。傍観者諸君もそろそろ飽きてきただろう逆境物語は、今まさに終わりを迎えようとしている。水溜まりに反射したランプが彼の革靴で遮られ、黒塗りの窓縁に手をかけた姿はどうにも悪役とは思えぬ楚々としていた。私が差し伸べた手にやわらかなキスを落とした彼はそのまま窓の外へと飛び出し、そして、私も逃避行。お母様もお兄様も、仲良くしてくださったお友達も、誰一人知らない私だけの逃避行。溝に流れ零れた水が静寂を震わせ、ヒロインたる私は、遂に、拍手喝采のお話に幕を閉じたのだった。
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「魔女の唇はいくらで買える？」
あなたのうすらと桃色に色づいた唇をなぞる指は、窓から差し込む朝日と小鳥たちの囀りなんて装飾品に過ぎないと、まるで真夜中の戯れを彷彿とさせるいやらしい指使いで口端を押す。憐れむような息を吐いたあなたにムッと頬をふくらませ、瞼に愛を縫いつけた彼。これはあくまで、可哀想な魔獣のいたずら。今はまだそれでいい。可愛いままだと侮ってくれれば万々歳。たったその瞬間のうちにあなたをシーツの波に溺れさせるほど彼は逞しい獣となり、そして、値段を提示するより素早く、世界一蒼く熟れた唇は彼の物となる。
(そうね、三億くらいで買わせてあげる)
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「節穴でも愛したげる」
いじめられるって、こういうこと。丁寧にケアをした髪をライターで炙られ、カッターで制服どころか躰まで傷つけられ、ぐちゃぐちゃに潰された虫の死骸を頬張って、惨めな表情で廊下に這い蹲る。今更大人が介入する糸ほつれなんてある訳ない。頼るべき相手を間違えたあなたにこれ以上選択肢は与えられず、これから先も、あなただけを愛してくれる王子様からの愛を醜く紊乱に受け取って欲しいんだ。頬が焼き爛れたって、舌が黒焦げになったって、掌が絆創膏ばかりになったって、愛があるなら、あなたはなんでもいいんでしょう。そう、言ったのでしょう。
どれか一部でもいいから頂戴
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作者名：眼窩 | 作成日時：2022年8月27日 2時
