【d!】アンダーグラウンド・ラヴ (ページ13)

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つるかめつるかめ

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「新品未使用の中古品(処女喪失一歩手前)なんて、カワイソウですよねエ」

叶うはずもない力で引きずり込まれた先に広がっていたのは、あやかしが住まう不思議な世界でもなく、モンスターが群れる冒険的な世界でもなく、現実の平行線上に蔓延る埃まみれの人でなしだけだったのだけれど。無茶苦茶に引っ張られた髪と、はだけた衣類。鼠の臭いを纏う男どもの隙間から、ひとりだけ、幽霊みたいなひとがいた。あなたの視線に気づいた彼は携帯をコンクリートに投げ捨て、今にも喪いそうなあなたへとある選択肢を提示した。このまま落ちぶれるか、彼と一緒に死ぬか。ああもちろん、開封(喪失)済みで。

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「おれをまなうらに焼き付けて」

それももう、のこり少ない彼のことば。不治の病とやらには嫌悪も媚態(びたい)も通用するわけなくて、着々と人ならざるものへと変わってゆく彼を見届けることしか出来ない。人としての彼が亡くなった暁には、人ではない彼の生誕。魂はおなじなんだから、まさしくこの世の不可思議と言っても過言じゃない。今にも命の線をハサミで裂いてしまいそうな彼の手を握って、可笑しくも見続けていよう。

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「あとさんふん、巻き戻していいよ」

時計。それは、あなたと彼が歩む世界を表すものじゃなくて、彼があなたを縛り付けるためだけに生まれたもの。あなたが5分後に死ぬのなら、5分後なんて一生訪れないように時計を巻き戻す。あなたが今死のうとするのなら、今を葬って1分後へと巻き戻す。それだけ。いいよ、なんて彼の愉悦の欠片に踊らされて、あなたはその時計とやらの秒針をみっつぶん前へと巻き戻した。耳を劈く機械的な音のあとに、あなたの目の前に立つのは人としての役割を果たせなかった実験体。あなたが彼と会う前の、彼の姿。巻き戻した末に、三年分の時間が捻る。無情に過ぎていく世界のなかで、あなたはずうっと、彼を待たなければいけなかった。

くわばらくわばら