98. 生き苦しさ ページ5
―京都市内 某所―
幹部の伝令により、京都市内に蔓延る呪霊を対峙していた呪術師達は全員、退却をするよう要請が入った。最初は不満を覚える者達も多数いたが、天秤にかけられているのが自分達の命であることを知り、誰も逆らう者はいなかった。
『さてと―…』
呪力感知能力を使い、京都市内に呪術師がいないことを確認した上で、Aは帳を下ろす。
『――始めようか』
右顔面を覆う仮面を外すや否や、Aの周囲に現れるのは複数体の怨霊と、数百体の呪霊達。
「あれー?「人」の気配ないよ」
『状況が一変した。私達がこれから殺すのは―…「呪い」だ』
「――…睦月は?」
遮那王はAに問う。
『高専関係者に殺された』
「「!!」」
その言葉を聞いた途端、怨霊と呪霊達は激昂し今すぐにでも「人」を殺そうと躍起になる。しかし―…"器"であるAはそれを望んでいない。
『私と呪術高専との契約は、睦月の死をもって破断した。だが、ここにいる「呪い」を祓うことは睦月の望みである』
私はあくまで、睦月の望みを叶えるほかない。そう彼らに伝える。
「…Aは、それでいいの?」
当初の予定では、手始めに殺すのは「高専関係者」だと言った。にもかかわらず、本心とは真逆の事をこれからやろうとしていることに、遮那王は気掛かりだった。
『良くはないけど…、仕方ないだろう?』
「…A、苦しくない?」
茨木童子がAの足に抱き着き、ジッと見上げる。
「A、本音、教えて」
『……』
呪霊達には既に指示を出しているため、この地域に蔓延る「呪い」達に襲い掛かっている。だが怨霊達は未だ、Aの元を離れようとはしない。
『…苦しいさ。生き苦しいよ』
Aはしゃがみ込み、茨木童子をそっと抱きしめる。すると他の怨霊達は、Aの頭や肩、背中に手を置いた。A自身に溢れた感情を共有するように、彼らは彼女に寄り添う。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2022年2月5日 19時