131. 「人」と過ごす束の間の休息 ページ38
家に着くや否や、Aさんにはソファで寛ぐように言い、私は台所に立った。
言われるがままAさんは着替えを済ませソファに座り、スマホで何かメールを打っている。
「できました、食べましょう」
用意された料理を見て、Aさんは予想に反して無反応だった。
『…いただきます』
ゆっくり口に運ぶが、どうも反応が薄い。だけど『美味しいです』とだけ言って、食事を進めていた。
「…どうかしましたか?」
手が止まっているのは明らかであり、それを指摘すると彼女は苦笑い気味になる。
「味が合わなかったとか?」
『いや…、そうではなく』
「では?」
私は食べ終えていたのだが、彼女は一向に食事に手が進まない。
「正直に言ってください」
『…味、濃い目がいいな。生まれつき「嗅覚」と「味覚」が麻痺していて、味も匂いもしない』
「!!」
『元々食に疎く、まともな食事をしていなかったのもあるけど…ね。七海君が作ってくれた料理が、美味しくないわけではないから』
こういうこと言うと語弊があるかもしれないけど…、申し訳なさそうに言うAさんに、私はより一層彼女を愛おしく思った。
「お気になさらず、ゆっくり休んでください」
と私は、これ以上気乗りしない食事を強要させるわけにもいかず、Aさんの手を握ってソファに誘導すると、それらを片付け始める。せっかく作ってくれたのに、残してしまったことを詫びる(名前1)さんの全てが、私に向けられているものだと分かるだけで、笑みが零れてくる。
台所で片づけをする私を横目に、Aさんは終始私の言動に呆気にとられているようにも思えた。
そして夜も遅いため、片付けを終えた私は、「寝ましょう」と寝室へと促した。先に寝る準備を済ませ、Aさんをベッドへと誘導し、腕枕をして向かい合わせになる。
最初の頃は背中合わせだったのだが、本人の希望により2日目からは、当然の如く向かい合わせで寝るようになった。
基本的に私の行為に対し、嫌がるような素振りは見せず、流れに身を任せるタイプであるようで、本人の意思を示すようなことはない。
私はAさんを抱き寄せる。それに対し彼女は、私の胸に寄りかかるだけ。
そして必ずと言っていいほど、Aさんの方が先に寝落ちする。特に会話をすることなく、彼女は静かに寝息を立てて眠りにつく。そんな彼女を愛おしく思っていたのは、言うまでもない。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2022年2月5日 19時