127. 「人」に対する感情の相違 ページ34
それからまた数日が経過し、睦月が眠りから目を覚ました。
だが2017年12月24日にあった出来事の記憶は、Aより抜き取られているため覚えておらず、Aと会った後、Aによって眠らされていたという記憶に書き換えられていた。
「…Aは今七海君のところにいるんだって?」
『あぁ…、居候という形で』
「そうなんだ。どう?慣れた?」
今、Aは睦月と共に行動していた。2人で出かけたのは28年間生きてきて初めてともいえる。
そして喫茶店に立ち寄り、Aの近況について睦月に質問攻めにされていた。
『まぁ…、何考えているのか分からないけど』
「今だから言えるけど、七海君。高専時代からずっとAのこと気になってたみたいだよ」
『……はい?』
え、だって…会ったのは2回程度じゃない?とAは言うが、
「その当時は傑がAのこと好きだって公言してたから、近づけなかったみたいだね」
だから今は、七海君が願った通りになったんじゃないかな、と睦月は笑っていた。
『(…あの言葉は、嘘偽りなかったと)』
Aが七海の家に居候する形になったのも、七海のAに対する「好意」を利用するに至ったから。人の言葉を真に受けないAは、睦月から聞かされる七海の印象にただ『そうなんだ』と適当に相槌を打っていた。
「――Aは、今も傑のことどう思ってる?」
『…?どう、とは?』
唐突な質問に、Aは首を傾げる。
「一緒にいようと思ったのは、傑のことが「好き」だったから?」
その問いにAは初めて睦月に対して「嫌悪感」を抱いた。
Aには他者に対する性的指向も、恋愛的指向がない。更に約20年に渡り、「人」の世から断絶されたが故、「人の感性」を持たない。
人を「好き」になるということ自体が、Aにとっては最も理解しがたいものだった。
『…どうだろ』
Aは言葉を濁した。だけど睦月は色恋沙汰を掘り下げようと、無意識にもAの心に土足で踏み入れる。
「素直じゃないよね…、A。じゃあ七海君は?」
『……』
今まで一度たりとも、睦月に対して「黒い感情」を抱くことはなかったのに。あまりにも2人は一緒にいる時間が短すぎた。睦月には互いの事を理解しようと、寄り添う心を持ち合わせてはいない。Aは、睦月の事を大切に想っていたのにそれは…、Aの一方的な自己満だったのではないか、そう考えるようになり、すれ違いが2人の間で生じる。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2022年2月5日 19時