126. 誰にも殺せない男 ページ33
『…っは、かっ…』
声を取り戻したとほぼ同時に、喀血し溜まっていたものを吐き出す。その多量の血に七海は目を見開くも、彼女の背に触れてさする。
「吐き出せるだけ、出してください」
もう血を吐いているのか、胃に残ったものを吐いているのか分からなくなっていたが、出るもの全てが血黒い液体であることに変わりがなく、判断のしようがない。
そしてある程度吐き出し終えると、Aは袖口で口元を拭った。
「…あの男が、例の呪詛師か?」
五条の問いかけに、Aは『…何で知っているの?』といった反応を見せる。
「…自己紹介されましたので」
『…相変わらずだな、あの人』
今まで全くと言っていいほど、人前に現れるような男ではなかったというのに、どういう風の吹き回しなんだ…、とAは呆れている。
「久禮田、と名乗ってましたが」
『新興宗教団体の教祖であり、久禮田家宗家の前当主』
「……え?」
『あの男は誰にも殺せない。例え、君であってもね』
Aはそう言って、七海の手を借りることなくその場から立ち上がる。
「殺せないって…、まさかあの男も不死身とでも?」
『いや、そうじゃない。…、ある条件を満たさなければ、あの男を殺すことはおろか、近づくことすら容易じゃない』
「…条件?」
『久禮田家の人間が3人揃うこと』
つまり、神無月とA、そして今眠っている睦月の3人が揃った時、初めて神無月と真っ向勝負ができるというのだ。
「それでようやく、あの男を殺せる条件が揃うと?」
『端的に言えば』
だがAは何か隠すような、意味深な返答をして、五条達から背を向ける。
「A」
何も言わずに立ち去ろうとするAを、五条が引き留める。
「何を企んでいる?」
『……』
「また…、1人で何かするつもりじゃ」
『するよ。君達が望まないことを』
「!!」
『…夏油君が君に何を託したかは知らない。これから彼の想いを、願いを踏みにじることをする』
まんざらでもない表情を浮かべるAに、受け止め難い2人は彼女を引き留めようとする。しかし―…
『睦月の手を穢さないために、仕方ないんだ』
これ以上何も話すことはない、と言ってAは足取りがおぼつかないまま、彼らの元を離れていった。
「…いくら睦月の為を想ってとはいえ、Aが犠牲になるのは間違っている」
「……」
「そんなの…、一生報われないじゃないか」
苛立ちを隠すように五条は無意識に拳を強く握りしめていた。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2022年2月5日 19時