109. 「好意」を利用した関係 ページ16
「…ということですので、こちらに来てください」
そう言って七海は寝室を出てリビングへと案内した。そして彼女をソファに座らせ、その隣に腰かける。
あまりにも近い距離間に、Aは終始困惑気味。高専時代ですら、東京校にいた七海とは接点がなかったにもかかわらず、呪詛師であるAを匿い、面倒を見ようとするお人好しに、Aは何も言えなかった。というより、全く理解が追いついていなかった。
「…五条さんの事は覚えてますか?」
『あぁ…、睦月の恋人の』
「近いうちに話がしたいと、言っていましたが…、よろしいでしょうか?」
『そうだね。私も君達に話さなきゃいけないことがあるから、ちょうどいい機会を得られたかな』
「…分かりました」
七海の返事を聞き、Aはふと彼は自分が目覚める間、ソファで寝ていたのではないかと気付く。
『今日からは君がベッドで寝なよ』
「!…え?いや、しかし…」
『もう、台の上で寝るのは懲り懲りなんだよ』
「(…台の上?)」
Aにとって、横になるという行為自体が、人体実験被験者であった頃を彷彿させるため、極力避ける。夏油と一緒にいた頃は、彼がAを「人」の世に留めさせてくれていたから。
だけど七海とは何ら関わりのない他人に過ぎず。男女関係になるのは彼自身も望んでいないはず。
であるならば、居候人が家主の寝床を奪うのは失礼だ。
「…夏油さんといた頃は、どうしていたんですか?」
『一緒の布団で寝ていた』
「!」
『私は「人」に触れないと、いずれ「人の負の感情」に飲まれ自我を失う。向こうが自分に好意があったから、その「心」を利用した。本人はまんざらでもない様子だったけどね』
とAは七海の心情を他所に淡々と語る。
『いくら君とは面識があるからと言って、夏油君とは違う。必要以上に深入りすることはない』
「……」
『…1人は慣れている』
「孤独」に生きようとするAの手を、七海はそっと握った。
「…Aさん」
『?』
急に名前で呼ばれ、Aは顔を上げ七海の方に目を向ける。
「眼中にないことは重々承知していますが…。流石に好意のある女性の口から、別の男の名が出て且つ比較されるのは癪に障ります」
『…はい?』
「私の「心」を利用すれば、貴女は気兼ねなく「人」に触れることができる。そういう解釈でよろしければ、私はそのような関係でも構いません」
一体何を言っているのだ…、と呆気にとられるA。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2022年2月5日 19時