106. 東京へ ページ13
｢…分かりました。あの、彼女についてですが…｣
〈Aを上の連中に引き渡せば、睦月が何をしでかすか予想がつかない。今回だってそうだ…、裏で何者かが動いている…、そんな気がする〉
五条は一息つき、七海は彼の言葉を待つ。
〈僕は明日、京都に行って睦月を連れ帰るけど。七海の件は、夜蛾学長にも伝えたから、数日任務は入らないよう調整してもらった〉
それはAへの監視も含まれている、というのは言わずとも分かっていた。
｢…分かりました。東京に着いたら一度連絡入れます｣
そして通話を切り、七海は東京へと向かう車に乗り込むのだった。
―道中―
京都から東京まで、車で6時間くらい。
京都に一泊するのも有だったが、Aの件もあり、深夜に出発することになった。
車に乗り込み、七海はAの隣に座る。ずっと眠ってはいるが、魘されているのか眉間に皺が寄っていた。
｢…相当、お辛いようですね｣
｢？｣
すると運転手がバックミラー越しにAの様子を見て、そう言った。
｢二階堂さんからある程度、Aさんの事は聞いていますが…。我々の想像を遥かに超える、過酷な経験をされていたそうで｣
｢…と言いますと？｣
｢詳細は話せません。しかし…、今の現代社会でそのようなことが実際に行われていた、そう考えるだけで、あまりにもこの方は―…｢人｣の世から断絶させられたことにより、｢孤独｣の時間が長すぎました｣
｢…え…？｣
七海は運転手の話に耳を疑った。
｢…想像してみてください。4歳で両親を失い、たった一人の家族である睦月さんとも引き離され…、約11年間、大人達にずっと冷遇され、存在自体が｢呪い｣であると罵倒し否定される日々を｣
｢……｣
｢親の愛情が必要である年頃でありながら、彼女は―…1人｢孤独｣を生きることを強いられた｣
運転手はそう言葉を紡ぎ、七海は静かに聞いている。だけど彼の手は、Aの手をしっかりと握られていて。バックミラー越しにそれを見た運転手は、微かに笑みを浮かべた。
｢せめて…、少しの間だけでも｢人｣と過ごす時間を大切にして欲しい｣
だから彼女は―…、呪詛師でありながらも夏油傑の元へ行ったのだと、我々は推測しています。と運転手はそう語る。
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作者名：Haru yama | 作成日時：2022年2月5日 19時
