87. 正反対な世界への憧れ ページ40
「…用があるなら、呼んで来ましょうか?」
「いや!!休んでいるなら邪魔するのも悪いか!!」
「そうですね。僕も邪魔したくないので、ここにいます」
「うむ!!読んでる所すまぬな!!」
「いえ…」
そう言って再び井草は書物に目を向ける。それを初見が複雑そうに見ていた。
煉獄家で共同訓練をした時に比べて、かなり顔つきが異なる。それにあの9人の中で最も貧弱だったはずなのに、随分と違う。一体、あの人の元でどんな過酷な訓練を受けているのか…。
それからしばらくして、屋根の上で休んでいたAが座席に戻ってきた。
座席では初見と井草は眠っており、煉獄はこちらに気付く。
「む?A少年」
『どうも。あぁ、流石に長旅だから寝るか』
眠っている井草に着ていた羽織を掛ける。そして、煉獄から少し離れたところに座った。
すると何故か煉獄が自分の席を立ち、こちらに来る。
『……なに?』
「となり、いいか?」
『あぁ、どうぞ』
Aは気にすることなく、席を譲る。Aは窓の外に目を向けたまま、何も言わない。
「君はいつも窓の外に目を向けているな!」
流石に寝ている人がいるからか、いつもより声の音量を抑えている煉獄。
『あぁ、そうだな。外の世界への、単なる憧れだ』
「…憧れ?」
『まぁな』
特に語るつもりもないらしく、Aは窓の外から視線を外さない。
「A少年―…」
『鬼を殺すことも、鬼舞辻無惨との戦いに関わることもない、血生臭い世界とは正反対な世界。でも、そんな憧れを抱いたところで、運命は変えられない。俺は鬼を殺すために、そのためだけに、生き続けている。この世界で生かされている』
Aはようやく煉獄の方を見る。そして視線が合い、フッと笑ってしまった。
『…こんな話、聞きたくなかっただろう?』
「…いや…」
『まだ駅に着くまで時間がある。アンタも今のうちに身体を休めるといい』
俺も軽く仮眠をとるから。そう言って、窓辺に寄りかかろうとする。すると、
「こちらに来るといい、俺の肩を貸そう」
首を傾げるも、照れることを知らないAは頷いて、彼の肩に寄りかかる。
久しぶりかもしれない、人のぬくもりに思わず笑みが零れ、そのまま眠りについた。
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Haru yama | 作成日時:2021年5月26日 0時