50. 異変 ページ3
『…あと、話変わるが。俺に毒や薬は効かない。それは今回の治療ではっきりしたはずだ』
「…はい」
それは胡蝶自身も気になっていたことだった。
いくら医薬品を投与してもAの場合、一切効果がみられない。それどころか、右目の損傷も、骨折も、内臓の損傷も、自身の治癒能力だけで簡潔してしまった。それはやはり、無惨の血が関係しているのだろうか。だけどそれ以上の事を胡蝶は聞き出す気にはなれなかった。
すぐに白鴉が来て、Aに伝令を伝えたからだ。
「至急、希逗沙ノ元ヘ!異変、希逗沙異変!」
『!?…しのぶ、俺が眠って何日経っている?』
「え、1週間ほどです」
『……治療に感謝する』
日数を聞いて焦りを隠せないAは、窓から外へと飛び出していった。しかも、病衣のまま。
「…本当、たった1週間で全快だなんて…。でも有り得るのかしらね…、緋威羅木家の末裔なら」
そんな事を想いながら、胡蝶は身の回りの片づけをしていた。
――…
壱縷の呼びかけを聞きつけ、希逗沙の元へ駆けつける。
「A様!目を覚まされたんですね!」
かなたは安堵した表情で、こちらに目を向けている。
『あぁ、心配かけた。…希逗沙は?』
「こちらです」
くいなの案内で、地下牢の中にいる希逗沙の姿を見つける。
だが、今までと様子がおかしい。皮膚は爛れていて、更に意識がないようだ。
『…何があった?』
「A様の危機を察知して、昼間に外へと飛び出しました。腕の一部の皮膚が日光により爛れ、その後意識を失いました」
『…血が不足している、という訳ではないのか?』
希逗沙の脈拍及び状態を確認する。内臓機能が弱っている様子もなく、脈拍も正常だ。なのに、意識だけがない。
『…"何か"に、強く反応を示した…か』
その"何か"は、A自身も分からない。だけど、意識を失っている状態が続けば、血を摂取することができないため、このまま衰弱しかねない。
眠っている希逗沙の口を無理やり開かせて、そこに血を流し入れる。
そしてそれでも目覚める様子はないが、もしかしたら禰豆子のように、深い眠りについているのかもしれない。
『……目を覚ましたら、知らせてほしい』
「もちろんです」
継続的に血の確保を約束し、Aは未だ眠り続けている希逗沙の頭を撫で、その場を後にした。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2021年5月26日 0時