62. 1日目 ページ15
―翌日―
集合場所へ向かうと、一足早く鍛錬に取り組む井草の姿があった。
そして、Aの姿を見るや否や、鍛錬を中断し、ペコッと頭を下げた。どうやら単独であれば、基礎的な礼儀は備わっているらしい。ただ集団になると、周りに合わせて行動するタイプ。
『おはよう』
「おはようございます」
『朝から偉いな』
そう言って褒めてやると、井草はポリポリと頬を掻いた。
「…兄と約束したんです。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、風が強くても、朝の鍛錬を怠ることはしないと」
――やはり、基礎的な体力はその生真面目さからきているのか。
『(…努力を惜しまないタイプ、か)』
彼の鍛錬が終わるまで、Aはただ見守ることにした。そして一休憩を入れた後、
『君の型を見せてもらおうか』
その言葉に井草はビクリ、と反応した。
「…あ、その…」
『水の呼吸を使うんだろ?』
「…そ、うですが…」
『やってみろ』
井草は終始ビクビクしていたが、やがて腹を括った様に前を向いた。
「…わ、分かりましたぁ。どの型をやりましょうか…?」
『壱ノ型だ』
「…は、はい!!」
井草は呼吸を整えると、「水の呼吸、壱ノ型、水面斬り」のようなものをした。
が、肝心の水が全く見えない。井草は何も声を発しないAをビクビクしながら見る。
「…あ、あのぅ…?」
『最後に任務に行ったのはいつだ?』
「…3日前、でしょうか」
訳が分からない…、技もろくに使えない中、こいつは何をしている?
『…どうやって戦っている?』
「…あの、それが…。僕、こんなだから、仲間にいじめられていて…」
呆気にとられるA。
「僕、癸の階級の隊士の中で1番強い奴らに虐められてて…。任務の時も、僕は何もできないって知ってるのに、連れまわして…、囮にされたり。鬼に傷つけられても最後には守ってくれるけど、処理とか雑用にいいように使われて…」
『…クズだな』
隊士の規律が著しく乱れていることに、Aは何も言えない。
「…でも僕、弱いし。何もできないし…、暴力とか振るわれても…」
『君が強くなれば何も問題ないだろ』
「…え?」
井草は顔を上げる。
『強くしてやるよ、1か月後、連中を見返せるぐらいにな』
Aは腹を括り、目の前にいる隊士を強く育てることを決意した。
もう二度と―…、同じ過ちを繰り返さないために。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2021年5月26日 0時