49. 目覚め ページ2
周りの事も気にする余裕がなく、思い切り病室の扉を開けた。
「Aさん!!」
「あらあら。もう少し静かにしましょうね。病人の方がいらっしゃるんですから」
その場にはしのぶさんと、すみちゃん、きよちゃん。
そしてベッドの上には、目を覚ましたAさんがいた。
『やぁ、そんなに慌ててどうした?誰か死んだか』
「あ、Aさん…!!」
不謹慎な言葉を口にするAさんに気にも留めず、俺の目からは涙が溢れる。
『何故泣く?誰も死んでいないじゃないか。それに、君達が来たから俺が助かったようなもの』
フッと笑い、Aさんは俺の頭を撫でた。
「…だって、まだ禰豆子のことのお礼も言えていない…」
『……それについては、日を改めて話さないか?俺も君とその妹に興味がある』
疑問符を浮かべるが、ふと俺と善逸はアオイさんに呼ばれて、Aさんの病室を後にした。
――…
病室には、胡蝶が1人。Aは布で押さえられている右目に手をやる。
「Aさん」
胡蝶が口を開く。
「…女性の方、だったんですね」
胡蝶の問いにAは、ただ苦笑いするだけ。そして、右目の布をはがす。
「折れていた肋骨、内臓の損傷、左腕の複雑骨折、そして右目の損傷は、すでに完治しています」
『…だろうな』
右目の傷は嘘のように綺麗に完治しており、さらに左腕も通常通り動かすことが可能。
「…聞かせていただけませんか?何故、性別を偽ってまで、鬼と戦うのか」
『……口外しないのであれば』
「しませんよ、誰も気づくことはないでしょうから」
そしてAは緋威羅木家について胡蝶に語る。
代々、初子は男女問わず、心身ともに強く優れた能力を持って生まれ、2番目はその全てに劣る。そして、2番目は血筋を絶やさないために、身分を偽り鬼の世界から一切かかわらないよう身を隠して、新たな家族を作る。
一方、初子は、鬼を狩るためだけに若干10歳から代々伝わる刀を継承して、戦場に立たなければならない。それが故、代々短命とされ、20歳以上生存した記録がないことも。
『…女として生まれたとしても、戦場では性別は関係ない。更に俺の場合、物心つく前から男として育てられたこともあり、今や戻すことも困難だな』
胡蝶は声を発することなくAの話に耳を傾けていた。
あまりにも、緋威羅木家は複雑で…、その末裔たちはずっと鬼を狩るためだけに生かされていることを思い知らされる。
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作者名:Haru yama | 作成日時:2021年5月26日 0時