クロスキューブ 30 ページ9
ハルタの言葉をわたしが受け取る。
「残されたあなたがどんなに落ち込んで悲しむのかも想像していた。
弟はあなたのオーボエの才能を信じていた。
だから自分の身になにが起きても、立ち止まってはいけない、前に進まなければならない、という思いをこの白いキューブに込めた」
ハルタは床に置いたスポーツバッグのジッパーを引いた。
出てきたのはパレットと、六つの油絵の具と、六本の筆だった。
成島さんがはっとした。
ハ「――二人とも、頼むよ」
ハルタの合図で千夏が成島さんの右腕に、西川さんは成島さんの左腕にしがみついた。
成「な、なによ」
成島さんが狼狽する。
西「ごめんね、ミヨちゃん 」
しがみつく西川さんが謝る。
成島さんは振り払おうとするが、二人で体重をかけているから身動きが取れない。
ハ「三分で終わる。それまで二人とも頑張って」
わたしは黙ってこの場で起きることを見守る。
ハルタがパレットに白・青・赤・橙・緑・黄の油絵の具をのせ、乾性油を垂らしていく。
それを見た成島さんの顔から血の気が失せた。
これからなにが起こるのかを理解した表情だった。
成「――やめてっ」
成島さんの叫び声を無視して、ハルタはまるで精密機械のように筆を操った。
それぞれのブロックに色を薄く塗り広げていく。
作業が速い。
一面が終わると筆を捨てて、次の色に取り掛かった。
成「いやっ、いやっ、お願いっ、離してっ」
耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴が教室に響いた。
成島さんが暴れる。
当然だ。弟が遺した大切な形見が、他人の手で姿を変えようとしているのだから。
ハルタが筆を捨てた。集中している目。
もう四面に入っている。
成「ああ．．．」
成島さんの身体から力が抜けていくのが見ただけで分かった。
必死にしがみつく西川さんは辛そうな顔をしている。
ハ「完成だ」
ハルタが言い、成島さんは床に両膝をついた。
ハルタの手で六面に塗られたキューブを茫然と眺めている。
成「．．．どうして？」
呻くような声だった。
ハ「どうだい、すっきりしただろう？」
成島さんは首を横に振った。
納得いかない。引きつった顔がその感情を表現していた。
千夏も西川さんも、やり切れない思いを抱えている。
一度もとめに入らなかった草壁先生を見た。
痛ましそうに目を細めるだけで、椅子から動こうとしない。
ハ「きみも、きみの家族も十分に苦しんだ。
もういいじゃないか」
ハルタが静かな声で言った。
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のの - 夜月さん» ありがとうございます！ (2016年4月7日 15時) (
レス) id: dd3ac278ec (このIDを非表示/違反報告)
夜月 - fruitさん» 才能だなんて！そんな！光栄です！毎回、コメントありがとうございます！これからもお願いします！ (2016年3月17日 0時) (レス) id: ca0edcb47b (このIDを非表示/違反報告)
fruit - オリジナル・・・とっても面白いです！ワクワクしてます！すごいですね〜(*´∀｀)才能なんでしょうね〜(*´∀｀)羨ましいです！頑張ってください！ (2016年3月16日 23時) (レス) id: 1c29b9fd37 (このIDを非表示/違反報告)
夜月 - あいさん» オリジナルは面白いかとても不安だったのですが、そう言ってもらえて光栄です！これからもどうぞよろしくお願いいたします！ (2016年3月13日 17時) (レス) id: ca0edcb47b (このIDを非表示/違反報告)
夜月 - ののさん» ありがとうございます！ですが、ゼロからのお話なので更新のペースが遅くなるかもしれません…まことに申し訳ありません…ですが！よろしくお願いします (2016年3月13日 17時) (レス) id: ca0edcb47b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜月 | 作成日時：2016年2月12日 18時
