過去10 ページ26
目を開けると白い天井。喉がヒリヒリする。
「なんで事故にあった俺の隣で無傷のお前が寝てんだよ」
にいの声に飛び起きる。隣のベッドには身体のあちこちに包帯を巻いたにいの姿。それだけで嫌でもここ数日のことが思い起こされる。
何も言えない。出かかった言葉はすべて喉につかえて出てこない。
「Aが寝てる間に医者と話したんだけどさ……ごめんな」
「何言ってんの……？」
何に謝ってんの？わかんないよ。なんで謝るの？
事故にあったのはにいのせいじゃないじゃん。なんで。
にいが次の言葉を紡ぐ前に顔を反対側に向ける。
聴きたくない。耳を塞いでしまいたい。なかったことにしたい。頭の中に警告のサイレンが鳴り響く。聴いちゃいけない。にいが次にいう言葉を聴きたくない。
「俺、お前とワカと全国制覇できないわ」
「…………は」
聴きたくなかった言葉が聞こえた。嘘だと、嫌だと、さけびたい言葉はたくさんあるのに何も言えない。
何かを言わなきゃとやっと出た言葉は言葉というにはあまりにも酷すぎる。ほとんど音のようなもの。
反対側を向いてるにいがどんな顔をしてるのかはわからなかった。
見たくなかったし、見れなかった。
「……Aはまだ、バレーが出来るんだよな」
続けてにいが放った嗚咽混じりのその一言に鈍器で殴られたような感覚に襲われた。
ただにいの背中が小さく見えた。
今度はなんの音も出てこなかった。
その代わりに自然とその場から逃げ出してる自分がいた。
走ったかもしれないし、歩いてたかもしれない。どうやって家までついたのかは覚えてない。気づいたら自分の家のベッドで朝を迎えてた。
母親によると丸一日起きてこなかったらしい。
何もやる気が出なかった。そこから部活には行かなかった。チームメイトの顔も、高等部の人たちの顔も見てない。にいの病室にはもちろん行かなかった。
高校はワカたちに合わせる顔がなくて海外転勤は変えられないという両親についていくことも考えたけど、英語を学ぶ気にもなれなくて数年前に亡くなった兵庫のばあちゃんの家に一人で越すことを決めた。
白鳥沢の人たちには何も言わないで宮城を出た。会ってもない。会えなかった。どんな顔をすればいいのかわからなかったから。
僕は二度目の裏切りをした。
胸のあたりに残ったのは真っ黒い何か。絶対に溶けることのない気持ち悪い何か。
病室のあの日から僕はにいと言葉も交わしてない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 580人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蓮夜 - 面白かったです。主人公が凄くかっこいいし、兄のことをにぃといってるギャップが良すぎました。お疲れ様でした！ (5月14日 23時) (
レス) @page48 id: 574d664119 (このIDを非表示/違反報告)
ぽん(プロフ) - 今一番楽しみにしてる小説です(T . T)これからも応援してます〜！ (2020年5月2日 11時) (レス) id: 008e34b9a1 (このIDを非表示/違反報告)
ogofumi(プロフ) - 続編おめでとうございます！めっちゃ好きです。これからも応援してます。更新頑張ってください！ (2020年4月30日 21時) (レス) id: d6342d80f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りろ | 作成日時：2020年4月30日 21時
