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どうしたの、と聞く暇もなく夜風が遮られ痛いほどにきつく抱きしめられていた。いつも私よりもはるかに速い鼓動が、この夜はどうにも聞こえず、代わりに痛いほどの抱擁と荒い息に、どうしようもない焦燥感を覚えた。ただ、彼の心が穏やかになることを願う一心で背中に手をまわす。眠れない夜にかつて母がしてくれたように、ポンポンと背中をたたくと、彼はまた突然に体を離し、私の肩をつかんでじいっと私を見つめた。その目は普段の兄貴然とした燃える心を映す生命力にあふれた眼差しではなく、母にすがろうとする赤子のような、この世の終わりを見てしまったかのような今にも泣きだしそうな弱弱しいもので、今も脳裏にこびりついている。なにかが、あったのだとやっと察した。鬼殺のなかで、今日、何かがあったのだ。どんな苦境にも真っ向から燃える心で挑む彼の心がぐしゃぐしゃになってしまうほどの悲しい何かが。
深呼吸をし、努めてゆっくりと、「どうしたの？」ときく。私はもう、結婚の話が持ち上がるもう前から、あなたの全部を受け止める覚悟を決めているのだと、伝わればいいと思いながら頬をなぜる。彼の瞳がかすかに震え、片目から雫がついーっとながれた。そして唇を、確かめるように慈しむように重ねた。初めてのことにまた顔が燃えるように熱くなったが、わたしはずっとこうなることを望んでいたような気がした。少しかさついた唇は思いのほか柔らかく、熱かった。唇から、わたしの思いが全部杏寿郎に流れ込んでしまえばいい、わたしはあなたのすべてを受け入れる覚悟も、私のすべてを預ける覚悟もとっくにできているのだと、流れてゆけばいいと思った。
どれくらいそうしていたかわからない。杏寿郎は私から離れると、
「すまなかった。もう大丈夫だ。ありがとう。」
とだけ言って、朝日の中帰っていった。
その翌日、煉獄家から婚約の破棄の旨が伝えられたのだった。
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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます！挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (
レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あおりんご | 作成日時：2019年8月15日 1時
