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「…少ししゃがんでいただけますか。」

私の跳ねたりむくれたりする様子がさぞ愉快だったのか、微笑みながら、ああ、と一言言いその巨躯を縮めてくれた。ちょうどよい位置になったのでやっと降り積もった雪を払う。冷たい雪と、悲鳴嶋様の人より高い体温の温度差に、妙に意識してしまいそうになる。
と、突然に寒さが遮断され、代わりによく知った線香の匂いと硬いからだ、熱いほどの体温に包まれた。
「ひ、悲鳴嶋様いかがされましたか?」
いつもは大きく高い背中は今、私と同じくらいの高さにあり、丸まって体温を分け与えるかのようにひしと抱き留められている。お心も海のように穏やかで太陽のようにお優しい方だが、この背中は少し小さく感じられた。ただ黙って私の体を抱きしめるこの方には、わたしが指で払えぬほど多くの、命と重圧と後悔が、溶けることなく降り積もり続けているのだろう。ゆっくりと背中に手をまわし、ほんの少しでもその方に積もった者が解けるようにとなでさすると、悲鳴嶋様は私の肩口に顔をうずめるように動いた。そこがじんわりとあつくなる。
「もうしばらく、こうしていてはくれないか。」
耳心地の善い低音で呟かれる。背中を撫でさするうちに、まるで一つになろうとしているような錯覚に見舞われるが、その中で揺蕩いたいとおもった。
「いつでも、いつまでも、私はここにおりますよ。」
体温を分かちあう。着物越しなのに私たちはくっついて離れない、もう元の形には戻れないような気がした。あなたが背中に命を背負い、肩に重圧と後悔を積もらせるのならば、わたしはあなたの胸からそれを少しでも溶かしたい。
どちらからともなく口づける。ただ触れるだけで互いの血液が混ざっていくような気がした。唇が離れると悲鳴嶋様が、
「そう、だったな。」
と、つぶやいた。その言葉は白くなって消えていったが暖かさだけがいつまでも私たちを包み込んでいるようだった。私はあなたと並んで鬼に対峙することはできないけれど、あなたの帰る家を温めておくことはできる。そのことがこの上なく幸福なのだと、鼻の奥がツンとなるほどに染み入った。

あなたの、誰にも見せないその柔らかいところは私だけが知っている。二人の足跡も雪がかき消してくれるだろう。そうして身を潜めていれば、必ず春は訪れるのだと信じて。

月は沈む*煉獄杏寿郎→←白日 /悲鳴嶼行冥



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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時

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