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「いつもお師匠のお傍に在りたいと願っています。でも、」
自分でも本当はわからないのだ。もしも、自分の命に今以上に重みがついてしまったら、私は、

「....怖いのです。」

雫がポタリと落ちて、雨漏りかと思ったら自分の涙だった。
急に不死川様に握られた手から血液が流れていくような、じわじわと、温かいものが流れ込んできて、もうなにも隠すことは出来なくなってしまうようで、怖いような安心するような切ないような訳が分からない気持ちになってしまった。

「あなたにお会いしてから私は、命が惜しくなるのです。私の妹を死なせた鬼を必ず殺したいのに、あなたの居るこのお屋敷に帰ってきたくてしょうがないのです。死ぬのが怖くなってしまうのです。」

溢れる。
溢れる。
溢れる。

「お師匠と一緒になりたいです。でも、一緒になったら私戦いに行くのが怖くなってしまいます。どんどん欲深くなっていくのです。」

お師匠の硬い手、暖かい手。凸凹の傷跡。全部が愛おしくてそばに居るだけでこんなに切ない。

繋がれた手が一瞬離れ、気付いた時には不死川様の暖かくて硬い胸の中にいた。心臓の早鐘が遠くで聞こえる。ただ満たされていくような羊水に浸かるような愛しさ。

「俺は、お前が大事だ。お前と一緒に生きたい。」

ぶっきらぼうで不器用で無愛想で肝心なことはいつも言葉にしてくれないこの人の、精一杯の優しい言葉。私が1番言われたくて、言われたくなかった言葉。

「お前が、俺がいるから生きたいと思うのなら、俺はお前より長く生きる。
約束はできねぇが、きっとだ。」

この人はひどい。私の逃げ場をなくして、全部を認めて抱きしめる。硬い体で、私が痛くないように優しく抱きしめる。

歪んだ世界で、あなたの温度だけが確かなもの。

私がこくりと頷くと、体をほんの少し離して、私の目をじいっと見つめた。ほんの少し鼻先と目が赤くなっている。
遠くの雨音も何も聞こえない。世界に私たち二人しかいなくなったみたいな静寂。


「俺と、めおとになってくれねぇか。
それで、もしどちらかが先に死んでも、同じ墓に入ろう。」

「はい。」

初めて知った。幸福だと、泣きたくなるんだ。切なくなるんだ。

慈しむように頭を撫でられ、かさついた唇が触れたころ、雨はもうやんでいた。

あした天気に /冨岡義勇→←あたたかいしたい /不死川実弥



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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時

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