師範と弟子 ページ23
木刀を下げて静かな中庭に立つ。
目を閉じて、体全体に意識を纏わせる。
空は穏やかに晴れ、微風に葉がサラサラと擦れる。
聞こえるのは自分の呼吸音のみ。
気配を探る。
いた。微かに動く、熱。
植物とも動物とも違う。
『……左前方、11時の方角。』
私の歩幅で、駆け足10歩ってとこか。
深く息を吸って木刀の柄を握りしめた。
身体から派生した風が波打ち、木々がザワザワと大きく揺れる。
髪が逆巻き、頬を打つ。
身体中の血が熱く沸き立っていく。
血流を大腿と足の裏に集中させる。
『……ッは！』
ためた息を一気に破裂させ、身体ごと跳ねた。
振りかぶった木刀を思い切り振り下ろす。
ガキィ…ンッッ！！
木と木がぶつかり合う鈍い音が響いた。
しゃがみ込んだまま、呼吸を整える。
吸って、吐く。
指先まで意識して、ゆっくりと。
波打っていた血管が、少しずつ静まっていく。
猛っていた血が、呼吸が、そして心が。
穏やかさを取り戻していく。
『………ふぅ』
わたしは膝を着いたまま、全身の力を抜いた。
しばらくして、フワリと頭に大きな掌が置かれたのを感じ、ゆっくり目を開く。
「腕を上げたなA。やはりお前はスジが良い。」
折れた木刀を拾い上げた不死川さんが、笑った。
『ありがとうございます。…師範。』
陽を浴びて佇む彼を見上げ、微笑んだ。
不死川邸に居候して、暫く経った頃。
こうして毎朝、彼自身に稽古をつけて貰うようになった。
"お前はその、特殊な血の扱いを極めろ。力を最大限に引き出せるようにな。"
鬼殺隊士が会得する「呼吸法」とやらが、どうやらわたしには向いていないと分かった不死川さんからの助言。
不死川さんは、わたしの踏み切り跡をしばらく見た後、
「瞬時に足底へ力が込められているのは良い。あとは…もう少し親指に力を入れろ。踏み込みに差が出る。」
と、言った。
『はい、師範。』
不死川さんの指導は理論的でわかりやすい。
あんなに気が短そうな顔をしている割に、実際は根気強く、丁寧で、観察力に長けている。
すごい人だと思う。
やはり、柱になるだけの素質を備えているのだろう。
傷だらけで顔はコワイが、気は優しくて料理上手で几帳面。
『ギャップ萌えってコレかぁ…』
思わず1人、呟いた。
「なんだァ？」
不思議そうな彼に『なんでもないです！』とニコッと笑う。
「朝飯にするかァ。」
『はい！』
わたしは歩き出した不死川さんの後を、追いかけた。
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ねう。(プロフ) - 3年前に読んでハマって、昔のスマホに記録を残していて…3年ぶりに電源を入れて、見つけて即飛んできました…やっぱりこのお話すっごく好きです(泣) (5月27日 21時) (
レス) @page26 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - るりもちさん» ありがとうございます。ちょっと忙しくて更新が停滞気味ですが、励みになります！ (2020年8月16日 21時) (レス) id: caa70b2ac7 (このIDを非表示/違反報告)
るりもち(プロフ) - タイトルにセンスを感じました…！(おい) 更新頑張って下さい！ (2020年8月16日 18時) (レス) id: 4d1d493798 (このIDを非表示/違反報告)
みん(プロフ) - まるこさん» あ、そうなんですね。分かりました。失礼しました。 (2020年8月4日 19時) (レス) id: 47d2d41a3d (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - みんさん» コメントありがとうございます。タイトルはわざと当て字にしています。紛らわしくてごめんなさい。宜しければまたお立ち寄りください。 (2020年8月4日 18時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まるこ | 作成日時：2020年7月29日 13時
