日常の、始まり ページ22
「……。」
『………。』
さて、どうしたものか。
目の前にちょこんと畏まっているAを眺める。
柱合会議の後、Aの世話係?になった俺はひとまず屋敷に連れてきたものの、どう接したら良いか考えあぐねていた。
現時点で敵か味方かわからねぇ。
先ほどのお館様の話では、Aが人間側につくかどうかはこちらの出方に委ねられている。
今までみたいに力任せに鬼の首を狩るのとはワケが違う。
この任務…柱になってから1番難易度が高いかもしれねぇ。
お館様は、Aに「人間として生きたくなるような日常」が必要だと仰った。
それが俺にできると。
『あのッ…』
考え込んでいると、Aの意を決したような声がした。
『ご迷惑をお掛けしてすみません…。わたし行くところがなくて。』
伏せた瞳が潤み、唇を噛み締めるA。
その頼りない姿を見ていると、何故か幼い妹弟達との遠い記憶がぼんやりと蘇った。
”大丈夫かァ?”
”兄ちゃん、めいわくかけてごめんなさい…。”
「……気にすんなァ。」
フッと笑って答えれば。目の前の少女の固い表情が少しほぐれた。
『…ありがとう。』
ようやく少し微笑んだAを見て、俺は立ち上がった。
「ついてこい。屋敷の中を案内する。」
……………………………
”そこの部屋、空いているから使え。”
実弥に言われた部屋で、多くない自分の荷物を解いた。
ベッドに腰かけて周囲を見渡す。
女性ばかりだった蝶屋敷とは、雰囲気が全然違う。
家具はどれも簡素で、飾り気がない。
けれど隅々まで片付いていて、チリ1つない。キレイに手入れされているのがわかる。
意外と几帳面な性格なんだろうか。
わたしはゆっくりと後ろに重心を倒し、ベッドに倒れこんだ。
モフッという柔らかい感触に背中が包まれる。
なんか全然実感が湧かない。
昨日まで蝶屋敷にいたのに、今日は不思議な声の青年に会って、そしてほぼ初対面の男の人の屋敷のベッドに寝転んでいる。
『……!良い匂い。』
不意に香った匂いに、思わず飛び起きた。
辿っていくと、トントン…という微かな包丁の音と、鍋の中身を味見する実弥の背中があった。Aの気配に気づくと「ん。」と自分の方に手招きする。
『美味しい!…お料理上手なんですね。』
味見を促されたAは思わず声を上げた。彼の荒っぽい外見とは正反対の、繊細で優しい味。
「…口に合うか。」
Aの反応を見た実弥は、満足げに微笑んだ。
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ねう。(プロフ) - 3年前に読んでハマって、昔のスマホに記録を残していて…3年ぶりに電源を入れて、見つけて即飛んできました…やっぱりこのお話すっごく好きです(泣) (5月27日 21時) (レス) @page26 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - るりもちさん» ありがとうございます。ちょっと忙しくて更新が停滞気味ですが、励みになります! (2020年8月16日 21時) (レス) id: caa70b2ac7 (このIDを非表示/違反報告)
るりもち(プロフ) - タイトルにセンスを感じました…!(おい) 更新頑張って下さい! (2020年8月16日 18時) (レス) id: 4d1d493798 (このIDを非表示/違反報告)
みん(プロフ) - まるこさん» あ、そうなんですね。分かりました。失礼しました。 (2020年8月4日 19時) (レス) id: 47d2d41a3d (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - みんさん» コメントありがとうございます。タイトルはわざと当て字にしています。紛らわしくてごめんなさい。宜しければまたお立ち寄りください。 (2020年8月4日 18時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるこ | 作成日時:2020年7月29日 13時