運命の日 −想い出− ページ13
町から少し離れた静かな墓地。
『来たよ。』
Aは、1つの墓石の前で立ち止まった。
『…誰だろう?』
ずいぶん来られなかったはずなのに、キレイに清掃されて花が活けてある。
このお墓を守るのは、もうわたししかいないはず…。
『誰かわからないけど、ありがとう。』
わたしはお礼を言って、お墓の前に膝をつく。
眼を閉じて、手を合わせた。
幼い頃の記憶を辿る。
誰からか時々届く金品で生計は立てられていたが、母子2人の生活は豊かとは言えなかった。
”おかあさま…。おかあさま!”
”…ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。”
”おかあさま、夜なのにおけしょうするの…?”
”……夜だから、よ。”
母は美しいが儚い人だった。
可愛がってくれたけど、わたし越しに他の人を見ているような気がした。
いつも誰かを待っていたが、あれは誰を待っていたのだろう−…。
……………………
どれくらい時間が経ったのか。
気づくと日は落ち、辺りが薄暗くなってきているのに気づきAは慌てた。
『暗くなる前に戻るって約束したのに!』
怒られる、と立ち上がると後ろに気配を感じた。
「用は済んだか、A。」
『黒死牟!』
彼は墓に近づいた。
「お前の母親か。」
『うん。小さい頃に亡くなったの。父親はいなかったから、母と2人きりだった。』
「……そうか。手入れが行き届いているな。」
『しばらくぶりなんだけど、キレイになってたの。誰だろね?』
「……。」
しばらく時が流れた。
暑さの引いた心地よい夕暮れの風に包まれる。
『黒死牟のお母様はどんな人だったの?』
ふと気になって尋ねてみた。
「………。」
『あ、言いたくなかったらいいんだけど。』
帰ってこない返答に、気を悪くしたかと様子を伺う。
「…………。」
『………。』
墓を見つめていた黒死牟が、ポツリと呟いた。
「…幼少の頃の記憶しかない。私は病に気づけなかった。」
『病気で亡くなったんだ…。』
幼い頃の自分を重ね、胸の奥がきゅうっと痛んだ。
どんなに寂しかったことだろう。
Aは墓を見つめる彼に近寄って、微笑んだ。
『待っててくれてありがと。……居場所なんてとっくにバレてたんでしょ?』
黒死牟はAの問いには答えず、ふっと微かに口角を上げた。
『ね、お願いがあるの。』
「なんだ?」
『死ぬ前に……1回でいいから私のこと』
言いかけたその時、墓石がぼうっと青く光り始めた。
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ねう。(プロフ) - 3年前に読んでハマって、昔のスマホに記録を残していて…3年ぶりに電源を入れて、見つけて即飛んできました…やっぱりこのお話すっごく好きです(泣) (5月27日 21時) (レス) @page26 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - るりもちさん» ありがとうございます。ちょっと忙しくて更新が停滞気味ですが、励みになります! (2020年8月16日 21時) (レス) id: caa70b2ac7 (このIDを非表示/違反報告)
るりもち(プロフ) - タイトルにセンスを感じました…!(おい) 更新頑張って下さい! (2020年8月16日 18時) (レス) id: 4d1d493798 (このIDを非表示/違反報告)
みん(プロフ) - まるこさん» あ、そうなんですね。分かりました。失礼しました。 (2020年8月4日 19時) (レス) id: 47d2d41a3d (このIDを非表示/違反報告)
まるこ(プロフ) - みんさん» コメントありがとうございます。タイトルはわざと当て字にしています。紛らわしくてごめんなさい。宜しければまたお立ち寄りください。 (2020年8月4日 18時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるこ | 作成日時:2020年7月29日 13時