88輪目 ページ8
「莉永さん、花江さん知りません？」
帰り際に聞く。
「娘さんのお迎えで先帰りましたよ」
「そうですか…」
「私でよければ聞きますよ」
ふふんっと資料の上に肘をつく莉永さん。
いや、その資料肘ついていいものじゃないよね。
呆れながら莉永さんに話す。
「実は峰島くんのことなんですけど…」
「うん、花江さんに話した方がいいですね」
小声で言うと私の後ろを見ながら察したようにそう言う莉永さん。
「最近ちょっとエスカレートしてない？彼氏アピは逆効果でしたかね？」
「いや…わかんないです…」
「まぁあと一週間だしなんとか耐えましょう。私もサポートします」
「はい…」
職場の前でスマホを弄りながら待っている彼に聞こえない声量で話す。
「じゃあお先に失礼します…」
「お疲れ様です。気をつけてくださいね」
「はい…」
重い足を動かし職場を出る。
「あ、お疲れ様です！」
「お疲れ様です」
「どうですか、僕の手際とか」
「いいと思いますよ、覚えも早いですし」
珍しく仕事の話から始まった。
残り1週間だからかな。
レポートとか書くのに必要とか？
そんな考えを覆す質問が彼の口から放たれる。
「そう言えばこの前彼氏とかいう人と手繋いでましたね」
「え…」
み、見られてた？！何故？！
恥ずかしさと少しの恐怖が混じり合いなんとも言えない声が出た。
「彼氏じゃないんじゃなかったんですか？」
彼氏って言っといた方がいいのか…？
でも言ったら言ったで島崎さん調子乗りそうだし…。
「付き合ってはないですけど周りからは付き合ってるように見られますね」
「付き合ってないのにあんなに嬉しそうに手繋ぐんですね」
どっから見てたの…。
「……夢を叶えてもらっただけです」
「夢？」
「買い物帰りでよく親子が手を繋いで帰ってるのを見かけるんです。それが凄く羨ましくて」
嘘ではなく本当のこと。
私は買い物帰りや学校帰り、幼稚園のお迎えなどで誰かと手を繋いでいる人達がすごく羨ましかった。
「なのでそんな幼稚な願いをこの前叶えてもらったんです」
イメージダウンには丁度いい話。
なのだが_。
「Aさん可愛いですね」
「え…」
逆効果？！
「あ、じゃあ手繋ぎます？ちょうど仕事帰りですし！」
「いや、もう叶ったんで大丈夫です…」
「何回でもいいじゃないですか〜」
「えぇ…」
困ったな…。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 39人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春悲 | 作成日時：2019年6月14日 21時
