18話 ページ20
｢では、お気をつけて｣
車の中から控えめに手を振る春秋に手を振り返し、目の前にある工場跡地に目を向ける。
大分廃れた雰囲気の建物に大きな煙突が2つ、施設の傍らにはもはや使い物にならないトラックや錆だらけのフェンスがそのままにされており、当時は工場として機能していた施設であることが伺えた。事前に送られてきた情報によれば、ここが廃墟になってから、そこそこ名の通っているヴィランが出入りするところを何度か民間人が確認しているらしい。
(人数は10人未満、内ヴィランの個性が割れているのが半数…)
ーー難易度的には差程高くはない。
これまでずっとソロで活動をしていたし、今回の任務のようにヴィランの数が多く不利なものも、今までの経験上決して少ない訳では無かった。
何より、私の個性に人数不利は関係ない。
("水"さえあればそれでいい)
幸い、この工場跡地のすぐ側には海がある。
元々、外国から輸入してきたものをそのまま加工して市場に出す施設だったようで、漁港は目と鼻の先であった。
海には様々な成分が混じっているが、約9割が水。
何かしら入っていたとしても"動かせて"しまえば問題は無い。
｢さて、海水を被るのはあんまり好きじゃないんだが…｣
着ていた紺のジャケットを傍のフェンスに投げかけて、革靴を脱ぎ、裸足になる。
そのままぺちぺちと歩いて、止まることなく真っ暗な海に飛び込んだ。
ボコボコと泡の抜ける音と低い唸るような波の音、そしてその後すぐに訪れる静寂。
ばっと水面から顔を上げて、少し口に入った海水を手で拭った。
｢しょっぱ…、これだから海は嫌なんだ。さっさと済ませよう。｣
グッと海中で拳を握り込み、個性を使う。
そうすると足の裏を何かに押されているような感覚と同時に、自分の体が海から陸へと持ち上がる。
"個性"を使うには自身の体に水が付着した状態であること、そして操る水が自分の半径500m以内にあることが条件。
工場跡地からこの海まで500m以内であることは既に確認済みなので、これで全ての条件は満たされ、施設内に入っても個性を使えることになる。
(殲滅、及び複数人の捕獲)
頭の中で任務内容を復唱し、堂々と工場跡地の裏口を裸足のまま蹴り飛ばす。
鈍い音が鳴り響いてひらけた視線の先に、あっけらかんとした表情でこちらを見つめる人間が9人。
敵意などまるで感じないような、優しい微笑みを彼らに向けながら
｢ここは暑いな、一緒に涼もうかヴィラン。｣
静かに狼煙をあげた。
続く (更新停止中)
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なっつ(プロフ) - このお話めちゃくちゃほっこりして大好きです！！更新楽しみです！ (2021年8月23日 14時) (
レス) id: 7aeb4072e1 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - エリちゃんと相澤先生大好きなので嬉しいです！更新楽しみにしてます！！ (2021年8月23日 8時) (レス) id: e6ef6aa37c (このIDを非表示/違反報告)
海月 - 続き待ってます!! 楽しみに読んでます 応援してます (2021年8月14日 10時) (レス) id: 715b9b383e (このIDを非表示/違反報告)
結月(プロフ) - めっちゃ好きです（*｀・ω・*） (2021年8月13日 21時) (レス) id: 7bc3a22003 (このIDを非表示/違反報告)
雨色の水滴 - 続き…続きはどこに?めっちゃ面白かったです!!応援しています!! (2021年8月12日 10時) (レス) id: 5a0f0dfb22 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2021年7月29日 2時
