1曲目 ページ3
『これで、説明会を終わります。尚、この後部活動がありますので、新入生は見学をしても構いませんー保護者の皆さまはー…』
(やっと終わったか…)
3月。この泉中学校に入学する1年生は、ばらばらとそれぞれの目的の部活動へと足を進める。
その中で、ひとりパイプ椅子に座ったまま動けずにいる、私、柚月A。
(どうしようかな、部活…)
強制入部というわけではない。
ただ、部活に入らないと、なんとなく浮く。
"やる気のない人"と見えるらしい。
(うーん…運動はムリだし…テキトーに、美術部にでも…)
次々と片付けられていく椅子に、いつまでも座っているわけにもいかない。
私は仕方なく、ろくに目も通していないプリントをポケットに突っ込み、立ち上がった。
保護者と生徒が入り混じる中、その間をすり抜けて出口へと向かう。
(どうしよう…やっぱ文化部じゃ、美術部が一番ラクかな)
とはいえ、どこに美術室があるのかもわからない。
私はため息をひとつつくと、どこへともなく歩き出した。
(美術部に入りたいわけじゃない…美術室につけたなら、見てってもいいかな)
しばらく歩いた頃、不意に華やかな音が響いた。その音はか細く廊下に余韻を残して消えた。
見上げると、《吹奏楽部》と書かれた古ぼけたプレートが掛かっている。
(吹奏楽部か…)
特に行くあてもない。音楽が嫌いというわけでもない。
(暇潰しくらいには…なるかな)
私は、音楽室の扉を開けた。
音楽室に入ると、ちょうど指揮者が指揮台にのぼった。
指揮者が手を振ると、さっと音がとまる。
その一体感に、思わず、小さく息を呑んだ。
「…一曲目」
「「はい!!」」
指揮者が手を構え…2拍とると、手を振りおろした。
音が、私を貫いていった。
流されそうになる。
それだけの迫力が、この演奏にはあった。
廊下で聞いた時は、ひとりの音が、か細かった。
それが…全員で集まると、こんなにも大きな、壮大な世界が出来上がるんだ。
ぞくっとして、手を握りしめる。
静かなメロディーに切り替わる。
それまでとは打って変わり、胸を締め付けるような切ない旋律に、全身を包まれた。
楽器の名前はわからない。銀色の、横笛。
そこに混じるように入ってくる音がある。
その楽器は一番後ろで、一段高いところに座っている。ぐいぐいと曲を盛り上がりへと導いていくその音は、音楽室に高く、太く、響き渡った。
私は、その楽器から目が離せなかった。
私…
吹奏楽部に、入りたい。
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夜桜(プロフ) - Mさん ありがとうございます! (2017年9月16日 20時) (レス) id: 3ea5d81375 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 更新がカタツムリってかわいい表現ですね。タイトル好きです。 (2017年9月12日 13時) (レス) id: e7bec98917 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜(プロフ) - わああああテキストが終わりませんっ!更新がカタツムリになりそうです! (2015年12月27日 19時) (レス) id: 3f7ebbf011 (このIDを非表示/違反報告)
ジャック - 続編待ってるよん 執筆編集頑張れ (2015年12月27日 18時) (レス) id: 183314bc64 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜(プロフ) - 途中のところで話を挿入してますのでご了承くだされ。 (2015年5月5日 22時) (レス) id: 44e047bbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜桜 | 作成日時:2015年4月21日 20時