星の涙が降る頃に*【及川徹】 (ページ1)

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Ⅰ* ページ1

『ただいま』

自分の声だけが静かな部屋に響く

慣れとは怖いもので、もう何年もひとり暮らしを

しているのに癖で返事のあるはずない言葉を口にする

読みかけの新聞をそこら辺にほっぽり

慣れた手つきでテレビをつけ

買ってきたケーキをお皿にのせる

ケーキのお供にビールだなんて品の欠片もないが

仕事終わりにビールを飲まなきゃ

家に帰ってきた気がしないのだ

ビールを机におき、ケーキ片手にテレビの前の

ソファに座ると丁度始まる頃らしい

画面には"ワールドカップバレー"の文字

今年は日本で開催されているらしく割と近くに

会場があるため行ってみたとも思ったが

テレビの方が選手一人一人をしっかり見れる

この歳になっても誕生日を一緒に祝ってくれる

恋人すらいないなんて、流石に笑われる

そうこうしているうちに試合は始まった

高校時代に男子バレー部のマネージャーをしてから

好きになったバレーは、卒業した今も好きで

毎回欠かさずテレビで見ていた

画面に映る昔愛した人はアタッカーを導くような

綺麗に弧を描いたトスを上げる

昔と変わらない姿に自然と瞳が潤んだ

いや、変わらないのは私だけか

私の時間だけが止まっているんだ